望んだ事はB

□時空を越えたプロポーズ
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「嫌だよ・・・」

いろんな想いが交差するだろう。
短いけれど伝えるには十分な一言を絞り出したるるる。

あの状況の中で、七瀬の口から出た『別れ』という言葉。
どう考えても、七瀬と自分を指している。

そして、この世界で離ればなれになると言うことは、どちらかが元の世界に戻る事を意味する。

七瀬は三日前に、この世界の人間として生まれ変わった。
目の前に立っている彼女は、夕陽に紅く照らされている。

ここで知って大好きになった、綺麗でそれでいて儚げな紅。

『それがとてもよく似合うようになってる』

だからこそ、分かる。
七瀬は戻れないこと。
帰るとしたら、自分だと言うこと。
でも、

「嫌だ」

今気付く。
七瀬と離れたくないのは、自分の方だった、と。

一緒にいられるなら、帰るかもしれない。
こんなことになる少し前、二人で木の上で話した。
二人だからこそ、帰ろうかと言った。

でも、一人なら別だ。
七瀬が帰れないのなら、自分も残ればいいだけの事。
例え、自分だけが異質な存在だとしても。

「私はここに残」

「駄目だよ」

決意を口にする前に、それを制したのは七瀬だった。
その言葉に、はっとする。

七瀬の真剣な顔。
だか、一瞬にして微笑みへと変わった。

「待ってる人がいるじゃん」

そう言った彼女の表情は、何故だか嬉しそうだった。
自分の事を考えていたら、こんな顔は出来ない。
七瀬は今、るるるだけを思って心から笑ったのだ。

「お父さん、お母さん。
後、悠太君だったよね?」

話したことがあったかもしれない。
弟の名前を久しぶりに耳にする。

家族。
唯一無二の存在。

「・・・」

それを肯定することも、否定することも出来ないでいると、七瀬がは続けた。

「それに・・・もう一人待ってるよ」
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