望んだ事はB

□利吉の歩み
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歩いている。
怪我をしているのか、重りでもつけているのか、とにかく遅い。

「・・・・」

その足は進むどころか、次の一歩を出すことなく止まった。
道端にあった大きな岩を見つけると、それに腰を降ろす。

そして、背中を丸めた。
利吉だ。

忍術学園に向かうために、朝早く家を出た。
最初は両親もいた。
しかし、あまりの利吉の進む遅さに、流石にしびれを切らした伝蔵が、

「先に行っているから、母さんと後で来なさい」

と、離れた。

次に先程まで一緒にいた母親、

「利吉。母さんは少しだけ早く行くわね」

そう言うと、流石くの一。
あっという間に気配がなくなった。

別に怒ってはいない。
二人には、やることがある。
それを自分の不甲斐なさに付き合わせるつもりはなかった。

葬儀には参列するつもりだ。
だからといって、準備を手伝うために両親のように、早く行くつもりはなかった。

『どんな顔して、あの場所にいられるんだ』

それが本心だ。

「・・・はあ」

ため息をすると胸が痛かった。

七瀬に会いたい。
顔が見たい。

目が覚めた時、自分が生きている意味が分からなかった。
誰もが死を悟り、何より己が受け入れたのにもかかわらず、もう一度目を覚ました不可解。

「七瀬・・・が?」

父親から聞かされた事実。

あの時、叫んで狂ってしまったら、もっと楽になれただろうか。

余りの衝撃と恐怖で、あんなに震えたのは初めてだった。
寝かされていた保健室には、伝蔵と利吉しかいなかったのが唯一の救い。

「すみません。水を戴けませんか?」

そう言って、一人になった瞬間に学園を逃げるように出た利吉。

だから、最期の姿は見ていない。

どんな顔をして、永遠の眠りについているのだろう。

今、それに向き合いに行く自分。
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