望んだ事はB

□元の世界との繋がり
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「明日、わしは葬儀に呼ばれている。
もちろん、るるるさんもじゃ。
無理強いはしたくはないが、行った方がいい」

金楽寺の和尚がるるるに言った。
既に辺りは暗い。
るるるは部屋にはいたが、灯りをつけておらず真っ暗な世界にいる。

「・・・はい」

辛うじて出した一言。

「わしは準備があって早く行く。
小坊主と来るとよい」

「・・・はい」

優しく笑った和尚の顔もきっと見えてはいまい。
静かに襖が閉められると、一段と暗さが増す。
全く見えないに等しい。

何もない世界に一人取り残された気分になる。
実際、今のるるるの心情に似ているだろう。

ブーブーブー

突然の音。
静かな空間には、異様に響く。
そして、暗闇に現れた光。
七色のそれは、この世界に存在しないものだ。

「な・・・に?」

光に目をやると、どうやら昼間伊作が持ってきた荷物の辺りから漏れているようだった。
この時代には作られていない、不思議な音と光。

「携帯?」

取り出してみると、その画面にはアラームの文字が表示されていた。
時間を見ると、十時。

「消灯か」

寝る時間の早いこの世界。
分からなくならないようにセットしていた。

「・・・・」

暫く画面を見つめる。

この携帯にも思い出があった。
七瀬の元旦那と言い争ったこと。
親友だと言い切ったのは、嘘ではない。

いろんな物一つ一つに想いがある。
七瀬と笑ったり、泣いたりした記憶。
七瀬が存在した証。

それが明日、リセットされる。

「・・・・」

ピピピポピピピピピピポ

暗闇に映える携帯の光。
るるるの顔を浮かび出す。
彼女は携帯に何かを打ち込んでいた。

そして、手を止める。
呼び出し音の後に続いたのは、

「もしもし?」

受信者の声だ。

「・・・」

「もしもし?もしもし?」

応えないるるるに、その相手は何度も繰り返す。

「・・・・」

震える指が切るボタンに触れそうになった時、

「有子・・・?」

名前を呼ばれた。
この世界に来てから、呼ばれることがなくなった、本当の名前。

それを知る人物。

「・・・巧」

彼女の隣人、更に幼馴染みのその人だ。
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