望んだ事はB

□沈黙の連鎖
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自分の気持ちとは反対に、雲一つない空。
暫く見上げていた伊作の視線が昆奈門に移る。

そして、

「七瀬ちゃんの力を知っていますか?」

ポツリと言った。
話す決意をしたようだ。

喉元に違和感があるのか、右手で押さえながら、一つ一つ言葉を紡ぐ。

ただ、伊作が語ったのは起こった出来事ではなく、七瀬自信の事だった。

不思議な力を持っていること。
それは、神の力だということ。
風、炎、水、自然界のあらゆる力を使うことが出来たが、風以外は他人の為でないと使えなかったこと。

そして、その中でも本人すら使いあぐねていた力、治癒能力。
口付けをしただけで、どんな酷い傷も跡形もなく治す。
ある意味世間に知れたら、一番の驚異となる力だろう。

「・・・」

昆奈門は一言も発することはなかった。
驚きもある。
しかし、それよりも頭を占めたは、思い当たるあの出来事。

昆奈門の傷を治すと言って、唯一覆面から見えていた片目に口付けをしようとした、あれだ。

「でも、治癒能力には他の力とは違う・・・落とし穴があったんです」

伊作の言葉が再び昆奈門を現実に戻す。

「治しているのではなく、命を分け与えているだけなんです」

「!」

流石に昆奈門の眼が大きく開いた。
それに気付いたのか、伊作はあえて視線をそらす。
唇を噛みしめて続けるその様子は、何を物語るのか。

「使うのを止めていましたが、それでも目の前に助けを求めている人がいたら・・・」

間違いなく助ける。
彼女は保健委員ではない。
でも助ける。
それが、忍術学園の生徒なのだ。

暫しの沈黙。
昆奈門が何も語らないのは、考えているからだ。

彼女の力。
彼女の性格。

そして、導き出された答え。

「誰の為に使ったんだ?」

その力を。
その命を。
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