望んだ事はB

□いない
1ページ/4ページ

「どうじゃ、るるるの様子は」

学園長がその人を見るなり、まず発した一言。

「庭におる。じゃが、来たときと変わらんよ」

そう答えたのは、金楽寺の和尚。
若い頃は優秀な忍者だったらしいのだが、そんな過去を感じさせない。
坊主特有の落ち着いた物言いだ。
もちろん人柄あってこそ。

長年の付き合いの学園長は、それに何かと助けられてきた。
そして、今もそうなのだ。

かつてない苦しみに耐えきれず、思わずすがった旧友。

『すまんのう』

学園長は口にこそ出さなかったが、届いているようだ。

「なあに、まあ中へ」

和尚はそう言うと、視線をもう一人に向けた。

「伊作君もよく来てくれたね」

「・・・いえ」

和尚は見慣れた顔を優しい笑顔で迎え、二人を招き入れた。

学園長も笑ってはいなかったが、久しぶりに見た伊作の顔はもっと感情がなかった。

この子はこんな表情をする子ではなかったのに。

何とも言えない想いが、和尚の胸に突き刺さった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ