望んだ事はB
□いない
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「どうじゃ、るるるの様子は」
学園長がその人を見るなり、まず発した一言。
「庭におる。じゃが、来たときと変わらんよ」
そう答えたのは、金楽寺の和尚。
若い頃は優秀な忍者だったらしいのだが、そんな過去を感じさせない。
坊主特有の落ち着いた物言いだ。
もちろん人柄あってこそ。
長年の付き合いの学園長は、それに何かと助けられてきた。
そして、今もそうなのだ。
かつてない苦しみに耐えきれず、思わずすがった旧友。
『すまんのう』
学園長は口にこそ出さなかったが、届いているようだ。
「なあに、まあ中へ」
和尚はそう言うと、視線をもう一人に向けた。
「伊作君もよく来てくれたね」
「・・・いえ」
和尚は見慣れた顔を優しい笑顔で迎え、二人を招き入れた。
学園長も笑ってはいなかったが、久しぶりに見た伊作の顔はもっと感情がなかった。
この子はこんな表情をする子ではなかったのに。
何とも言えない想いが、和尚の胸に突き刺さった。