望んだ事はB
□暗闇の中
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晩御飯の後のプチバイト。
食券一枚で引き受けた、テストの採点。
土井先生がため息をつき、山田先生が隣で苦無の手入れをしている。
「るるる、遅くないですか?」
最後の答案用紙を束の上に置いて、ふと七瀬がどちらに言うでもなく呟いた。
「そうだな、小松田君の実家で何かご馳走になっているのかもしれないな」
授業で使う扇子を注文に行ったらしい。
るるるは、もちろんお兄さんに会いたくて、便乗しただけ。
「・・・ちょっと見てこようかな。
外出許可の代わりに、土井先生着いてきて下さい!」
「私が?」
「歩く許可証です」
その言葉に、山田先生がクックッと笑う。
「仕方ない・・・」
あまり顔が嫌そうでないことは、山田先生にはお見通しだ。
もう一つクックッと笑うと、頬を少しだけ赤くして、
「い、行くぞ」
焦って出ていった。
門を出ると、一面の闇。
外灯がないこの時代、その灯りは自分が用意しなければ、永遠の闇がずっと続くだけ。
静けさが、少しだけ怖かった。
土井先生に着いてきてもらったのは、正解だったようだ。
何となく、いつもより傍を歩いてしまう。
「なあ、七瀬」
何気に名前を呼ばれた。