望んだ事はB

□家族
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「伊作、お前は帰らないのか?」

「仙蔵、君だって」

秋休みの始まり、こんな会話があちこちでされた。
以前だったら、帰っていた。
るるるが言ったから。

『帰る家があるなら、帰りなさい』

しかし、今その本人がいない。
もちろん七瀬も。

学園長が「お暇」を承諾した。
ただし、秋休みが終わるまでとしたのは、下級生の動揺を防ぐため。
少しだけ早い休みをとっている。

場所は一部の先生しか知らない。
それに、聞いてはいけない気がした。
だから、彼らは待っている事しか出来ないのだ。

「伊作先輩!」

「乱太郎・・・帰るのかい?」

「はい!うちは半農半忍ですから」

秋休みに畑仕事を手伝いに家に帰る生徒も少なくない。

「いってきまーす!」

元気に手を振る乱太郎に、伊作と仙蔵が笑顔で応えた。

「こっちの気も知らんで、あいつ随分と嬉しそうだな」

「まだまだ、十歳だからね。家が恋しいのさ」

いつもにも増して猛スピードで走っていく乱太郎。
その姿は、親を求める幼な子に見えるだろう。

走って走って。
待っている家族の元へ。
懐かしい家が見える。

「父ちゃん!母ちゃん!」

家の外に出てきた、両親が手を振り返す。
そして、続くように出てきた人物、

「七瀬!!!るるるさーん!
ただいま!!!」

そう、二人は乱太郎の家にお世話になっていた。
乱太郎だけが先生から聞かされていた内緒の話。
秋休み一番の楽しみだ。
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