君と僕。
□ぽっちゃりシリーズ1〜片思い〜
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キーンコーンカーン…
午後5時半。すでに西日が差し込んで薄暗くなってきた無人の教室に、要は一人残っていた。
なにをするでもなく教卓に備え付けられている椅子に座り、数時間前まで担任の東先生が手を尽き授業をしていた教卓を見つめたり、触れたりしていた。
…東先生……。
心の中で先生の名を呼ぶ。
…先生……。
呼ぶたびに切ない気持ちが溢れかえって、要の胸を締め付けた。
塚原要は、東晃一に恋をしていた。
ぽっちゃりシリーズ1〜片思い〜
要自身、何故男の自分が男の東先生にこんな気持ちをいだいているのか分からなかった。
ゲイな訳ではない。綺麗な女の人を見れば目で追ったりもするし、
クラスの女子を可愛いとも思う。
男など好きになったことなんて、17年間一度だってなかった。
この気持ちに気づいたときは、今まで先生と話すときに感じていたモヤモヤの謎が解けて清々しい気分だった。
そうかこれは恋なんだ、と。それなら自分の今の気持ちに納得がいく。
だが、数秒遅れて要は暗闇のどん底にたたき落とされた気分だった。
そんなわけがない。でも、一度この気持ちを恋だと思ってしまえば、そうとしか考えられなくなる。
絶望的だった。
何でよりによって東先生なんだ。
要は東先生が苦手だった。一緒にいると調子が狂うし、ほかの誰といるときよりも緊張してしまう。
今までこの気持ちは“苦手”だと思っていたのに“恋”だと気がついてしまえば、子供扱いだかなんだか知らないけど、いつもされるたびにイライラしていた、頭を優しく撫でられるのも嬉しく感じてしまう。
はしめこそ絶望的だったが、東先生への気持ちが大きくなるにつれて、切なくて甘酸っぱいこの感情に要はワクワクともウキウキともつかない浮き足立った気持ちになっていった。
要は自分の気持ちを次第に受け入れていき、今では放課後に残って東先生の机をさすったり顔をうずめたりするくらいには東先生を好きになっていたし、また要自身の気持ちもしっかりと受け入れていった。