君と僕。
□ぽっちゃりシリーズ1〜片思い〜
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自分もあんなふうに先生と話せたら…。
隣で要が自己嫌悪に陥っていることなど知らずに、東先生は笑顔で他愛もない話を振ってくる。
最近雨ばっかりでいやだね、とか、この間春が授業中に解いた問題の答えが面白かった、とか。
そんな話をしているうちに要の緊張もとけて、だいぶ自然に話せるようになってきた。
「あ、ごめんね。先生がいたら仕事はかどらないよね」
先生は、はっとして申しわけなさそうに言って立ち上がった。
「あ、大丈夫です。もう終わるところだったんで。」
そう言って要も机の上に散乱している書類を片付けはじめた。
ほんと?よかった、と先生は安心したように言った。
外は既に暗くなっており、雨が降っていた。
どうしよう…
要は傘を持っていなかった。
数秒どうしようかと迷い、仕方なく走って帰ろうと鞄を頭の上に上げたとき。
「塚原くん、ちょっと待ってて」
少し遅れて外に出てきた東先生に呼び止められた。
先生は小走りで雨の中を走っていき、先生のものと思われる車に乗り込み、要の前まできて止まって窓を開けた。
「塚原くん、乗って」
「え、…でも」
要は戸惑い、乗るのをためらった。
「傘ないんでしょ?家まで送ってくよ」
先生はそう言って微笑んだ。
願ってもない申し出に要は内心凄く喜んだが表情には出さずに、じゃぁ、お願いします、と仏頂面でそうつぶやき助手席に乗り込んだ。
車の中でも二人は他愛もない話をした。せっかく生徒会室の中で緊張がとけたのに、東先生の車に乗っているというだけでまた要はさっき以上に緊張していた。そのため話し方も先程よりもぎこちなく、なんでそんなに緊張してるの?と先生に笑われてしまった。
それでも先生と話している時間はとても楽しく、あっという間に要の家についてしまった。
ありがとうございましたと先生にお礼を言い、車のドアに手をかけた。
先生ともっと話したい。
このまま別れてしまったらもうこんなふうに先生と2人っきりで、こんなにいっぱい話せるチャンスが二度とこないかもしれない。
「…せ、先生!!」
そう思ったら勝手に口が動いてしまい、少し裏返った大きな声で先生を呼んでしまった。
先生は驚いていたが、すぐに優しい笑顔で、何?と聞いてくれた。
要自身、呼ぶつもりなんてなかったのでもちろん用件なんてなかった。
黙り込んでしまった要を心配して先生がどうしたの?と聞いてくる。
なにか言わなければと、要は焦って口を開いた。
「…………あっ、あの…先生がさっき見たいって言ってた映画………週末一緒に見に…行きません………か?」