陰陽寮日記
□冷たい雨
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「昌浩の記憶が…消された」
明け方、まだ薄暗い晴明の部屋で満身創痍の状態で片膝をついてそう言ったのは十二神将の勾陣だった。
「まさか…!?」
流石の晴明も色をなくす。
勾陣の話によると、以前出雲で出会った人の記憶を弄る妖の双子と名乗る妖に昌浩の記憶は日常生活に必要なもの以外全て消し去られてしまったというのだ。
その妖は紅蓮や勾陣など十二神将によって倒したが、昌浩の記憶はもとに戻らなかったらしい。
とりあえず、混乱している昌浩を紅蓮や六合達にまかせ、勾陣だけが状況を晴明に伝えるために帰ってきたのだ。
「本人も混乱しているのだがそれ以上に…」
勾陣の言葉をそこまで聞いて晴明は納得した。
「紅蓮…じゃな。」
「あぁ……。」
今思い出しても痛々しい。
気が付いた昌浩に「おまえ誰?」と聞かれたときの紅蓮の表情。
大切な朋のその傷ついた表情が容易に想像でき、晴明は心を痛めた。
しばらく、沈黙だけが室内を満たした。
そこへ…。
「失礼いたします。」
と、いつもより丁寧だがいつもの何倍も冷たい声音で昌浩が入ってきた。
「あなたが、安部晴明……俺の祖父、ですか?」
そう言って話しかけてきた昌浩は、事情は大体神将たちに聞いたと言った。
ちょっとした会話を交わした後、昌浩は自分の部屋に六合に案内されて帰って行った。
そんな昌浩と話をしてみた晴明は、いつもの昌浩のまとう雰囲気より、何処となく冷淡な気がしたが、記憶をなくしてのショックのせいだとそのときはあまり気にしなかった。
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