陰陽寮日記
□書庫
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「昌浩さま、この書物はこちらでよろしかったですか?」
「あぁ!天貴はそんなもの持たなくて良いから座っていろ!!昌浩、これはここでいいんだろ?」
「え、あ…うん。ありがと、そこでいいんだよ」
ここは陰陽寮の書庫。
陰陽寮の直丁昌浩の今日の仕事は書庫の整理で、それが終わったら墨を摺ることと、暦の書写が残っている。
このくらいの忙しさはいつものことだが…
「ねぇ見て玄武!これ、懐かしいわね〜!!」
「太陰、あまり騒ぐな。あぁ…、確かに。」
いつもと違う、この状況……
「おい、勾。俺さまはこの姿では一番上の棚に手が届かないから、すまんがこれをあそこに入れてくれないか?」
「…本性に戻ればいいだろうに…仕方ないな。」
今この書庫には、十二神将のうちの6人がそろっているのだ。
「昌浩殿、この書物も戻しておいてくれ。」
「はい、承りました!」
しかし、この異常に人口密度の高いこの書庫も、徒人から見れば直丁が1人、熱心に書物を整理しているだけだった。
昌浩はまだ大人に比べて身長が低いため、一番高い棚は背伸びをしたり、飛び跳ねたりしてやっと手が届く。
そんな風に毎日頑張る昌浩を見かねた天一が、手伝ってくれるといいだしたら、天貴が行くなら俺も!と朱雀。そして面白そうだと付いてきた太陰に半ば強引に巻き込まれた玄武に、物の怪と勾陣が加わってこんな状況になったのだ。
「あぁ、こうすれば上の棚も見えるね!!」
そういって昌浩は近くにあった書物を重ねて踏み台にした。
「おいおい、貴重な書物を足蹴にするなよ〜」
物の怪がすかさず注意するが、あまり聞く耳を持たない昌浩。
器用に積み上げた本の上で作業していたが、次の瞬間、バランスを崩してしまった。
「お…わっと!!」
踏み台にしていた書物の山が崩れ、昌浩は床に叩き付けられる…はずだったが、その衝撃はいつまで待っても来なかった。
おそるおそる目をあけてみると…
「勾陣……」
勾陣に受け止められていた。
「馬鹿者、高いところは私たちにまかせて。お前はそんなに無理をするな。妖退治ならともかく、こんなところで怪我をしたなんて晴明に知られたら一生馬鹿にされ続けるぞ?」
一生って…。
それって、俺の一生が終わるまでじい様が生き続けてるの前提だよな…。
あの狸ならありえる…。
やっぱり、神将から見てもじい様は人間に見えないんだなぁ。
そういえば、このあいだ高淤の神にもいい加減自分を人の括りに押し込めとくのは辞めたらどうだって言われてたしなぁ〜。
そんなことを昌浩が考えていたときだった。
不意に、浮遊感を感じた。
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