昌彰小説

□削り氷
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「もっくんの毛並みが暑いっ!」

「仕方がないだろう、不可抗力だ!!」

じりじりと日が照っているある夏の日。

ぎゃあぎゃあと言い争っている、昌浩と物の怪。
その様子を彰子が笑って見ていた。


「大体もっくん、なんで火将なんだよー。暑いじゃん!」

「そんな文句は理不尽だっ!!」


今回のいい争いの原因はこの暑さらしい。
セミの鳴き声が更に体感気温を上げている気がする。

「……流石に、今日は暑いわね……。」

未だに続く二人の言い争いと、眩しすぎるほど煌々と輝く太陽を眺めながら彰子は呟いた。


と、その時。

「安倍晴明殿に、左大臣様よりお届け物です」


道長から暑中見舞いにと箱が届いた。
晴明がそれを開くと、中には大きな氷が入っている。

それを見た昌浩が、

「え、今真夏だよ、氷?」

と言うと、物の怪が説明してくれた。

「氷室で氷を保存しといたんだ。上級貴族の特権だな、さすが藤原道長。」


そんな物の怪の説明を適当に聞き流して、昌浩は氷に夢中だ。

「へぇ、冷たいねー!涼しいねー!!」


そんな孫の様子を微笑と共に見ていた晴明が口を挟む。


「ほれ、あまりペタペタ触ると溶けてしまうぞ。」


そして箱を彰子に手渡す。
それを受け取った彰子は笑顔で立ち上がった。

「露樹さまに頼んで削ってもらいましょう。」

「え、削っちゃうの?」

彰子の言葉に驚いた昌浩が目をむく。


「削って糖蜜をかけて食べるのよ。」

「暑い日には何より嬉しい甘味だな。」

さすが長い時を生きている物の怪と、大貴族の生まれの彰子。
こういうことの知識は昌浩などよりずっとあった。


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