昌彰小説
□心配しなくて大丈夫。
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夕日の優しい光が室内を満たしている。
それと同じ色の瞳が、一組の男女を見つめていた。
「最近忙しそうだけれど無理してない?」
と、着替えの手伝いをしながら問いかける見事な黒髪の女性と、
「うん、大丈夫。ありがと」
と、笑って答える青年。
昌浩と彰子だ。
穏やかないつもの光景を眺めていた夕焼け色の瞳の持ち主は、尻尾を一振りし、馬に蹴られてなるものかと部屋から出て行った。
二人とも年を重ねるごとに成長し、今ではもう立派な大人として認められる年になった。
昌浩は陰陽生筆頭として、昼間の陰陽寮の仕事を着実にこなしつつ、夜警に出て都の平和を影ながら守り、彰子はそんな彼を心身共に支えてきた。
昌浩と彰子の祝言は、昌浩が立派な陰陽師になった暁に上げることになっている。
昌浩の実力も寮内で認められつつあり、公式な陰陽師になるのも秒読み。
まさに順風満帆だった。
しかし。
「昌浩」
着替えを終え夕餉の席につくと、先に席についていた吉昌に声をかけられた。
「なんでしょうか、父上?」
首を傾げて答える昌浩。
こんな仕草は昔からちっとも変わらない。
「……また、お前宛に縁談の申し込みが来ているんだ。」
それを聞いた昌浩は大きくため息をつき、またか…と呟いた。
偶然お膳を運んでいた彰子も聞いてしまい身を硬くする。
昌浩に許嫁がいることは周知の事実であるのだが、将来有望な陰陽師に娘を嫁がせたいと、無理やり吉昌に縁組状を押し付けていく貴族が後を絶たないのだ。
「すまない昌浩。いつもならやんわりと断れるんだが、今回は参議殿の縁者ということで、どうしても断りきれなかった……。」
そう肩を落とす父に、昌浩は笑顔で言った。
「気にしないで下さい父上、参議殿の縁者なら、下手なことをすれば兄上の立場が危うくなります。俺が行って断ってくれば全て納まるなら簡単です。」
それから、静かに昌浩の隣に移動して来ていた彰子に向かって、心配しなくて大丈夫だから、と囁いた。
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