うさ綱日記 2日目
〇月△日 晴れ
昨日、僕は確かにうさぎを拾った。
この日記にも書いているんだから間違いない。
なのに、朝起きたらうさぎの姿が見当たらなくて、代わりに重力に逆らったツンツンとした薄色の髪に、昨日拾ったうさぎと同じ色の耳を生やして、一糸纏わぬ姿ですやすやと寝息を立てる少年が居た。
流石に驚いて、すかさずベッドから離れて相手を観察。
一応、僕の敵ではなさそうだ。
(全裸だしね……)
けど、怪しすぎるから取り敢えず長く垂れたうさぎの耳をつついてみた。
ていうか、この子人の耳も付いてるし…。
2、3度繰り返すと触れられるのが嫌なのか、耳が動いてパシンと指先を払われた。
これによって、この耳がコスプレの類でない事が証明されてしまった。
だって、カチューシャとかに付いてる耳が動く訳ないし。
このまま放置しておくのもどうかと思って、ウサミミ少年を揺さぶり起こす。
「ねぇ、起きなよ」
「んっ、ぅー……」
少年は寝ぼけ眼を両手でこしこしと擦り、意識が覚醒したらしく大きな瞳で僕の姿を捉えた途端、嬉しそうな笑みを浮かべて、ベッド脇に立っていた僕に向かって飛びついてきた。
まさか、いきなり相手が飛んでくるとは思わなかったから、咄嗟に彼の身体を受け止めたけど、ジャンプ力が凄まじかったみたいで、結局受け止めきれずに少年を抱いたまま尻餅をつく羽目になった。
……地味に痛い。
「ちょっ、君…」
「ご主人さまぁーっ!」
僕が文句を口にする前に、彼の激しい頬擦りが始まった。
よっぽど嬉しいのか、お尻の辺りにあるふさふさの丸い尻尾が揺れている。
耳だけじゃなかったんだね。
しかも「ご主人様」って…。
僕、そういう趣味の人じゃないんだけど……多分。
とにかく、相手を自分の身体から引っ剥がした。
彼は僕の行動が予想外だったらしく、きょとんと首を傾げる。
「あぅ?」
「君、誰?」
単刀直入に問うてみると、少年は益々不思議そうな顔をした。
「誰って…俺、うさぎの綱吉です。昨日貴方に拾ってもらった」
その瞬間、僕の頭にガツンと衝撃が走った。
いや、なんとなく予想はしていた。
彼が昨日拾ったうさぎかもしれないという事は。
けど、自分の価値観を根底から覆す様な事実をすんなりと受け入れられる程、人間出来ちゃいない。
だって、拾ったうさぎが可愛らしい男の子になりましたなんて話、いきなり信じられるかい?
こうなったら、本当に彼が僕の拾ったうさぎなのかとことん確かめてみよう。
「ねぇ、綱吉…だっけ?」
「はい、ご主人様」
「僕は昨日君とどこで会ったんだっけ?」
「えっと、ここの近くのごみ捨て場です」
「じゃあ、昨日君が食べたご飯は?」
「にんじんとキャベツです」
「だったら、僕達が一緒に寝ていた理由は?」
「それは、俺が寂しくて箱をカリカリしてたらご主人様が気づいてくれて、俺も一緒にご主人様のふかふかベッドに入れてもらったからです」
「……全部正解」
…本物と認めるしかないようだ。
だって、昨日の出来事は僕とうさぎしか知らないのだから。
漸く目の前の現実を受け入れた僕に、彼がぽつりと一言。
「ご主人様、お腹…空きました」
next…Coming soon