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□Happy Sweet Sensation
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5月5日…


世間がゴールデンウィークで騒がれているような日でも、並中風紀委員長である雲雀恭弥には一切関係なく、誰も居ない学校に一人登校し応接室で書類に目を通していた。







─…Happy Sweet Sensation







一通り今日の分の書類を片付け、壁に掛けてある時計に視線を向けると、時計を丁度15時を指していた。

雲雀は長時間同じ姿勢を続けていて凝った身体をグッと伸ばし、椅子から立ち上がると大きな欠伸をしながら黒い革張りのソファーへ移動し、ごろりと横になった。



(何か、忘れてる…?)



ふとそんな気がした雲雀は、ふかふかのソファーに身体を預け応接室の無機質な天井を見つめながら、口元に軽く指を当て思考を巡らせていた。

切れ長の目を細め、もう少しで何か思い出せそうになった時、廊下をぱたぱたと駆ける聞き慣れた足音が此方に近付いてくる事に気付き、雲雀はもうすぐここへやってくるであろう相手を思い表情を緩ませながらゆっくりと身体を起こした。


コンコン…と控えめにドアがノックされ、雲雀がどうぞと返事を返すとドアを開けて室内に入ってきたのは、やはり雲雀が想像していた通りの人物だった。


「し、失礼します」

「やぁ、よく来たね…綱吉」


沢田綱吉、並盛で最凶と謳われ群れることを嫌う雲雀の恋人の座を見事勝ち取った少年である。

元々二人は両想いで、雲雀が綱吉に告白した事を切っ掛けに付き合い始めた。
雲雀は綱吉を溺愛し、休み時間の廊下で堂々とキスをしたり、綱吉に少しでもちょっかいを出した輩は片っ端から咬み殺すので、今では並中で知らない者が居ない程の公認カップルとなっている。


雲雀は座っているソファーの自分の横のスペースをトントンと叩き、座るように促すと綱吉は素直に雲雀の隣にちょこんと座った。


「今日はどうしたんだい?」


休みなのにわざわざ学校まで…と続けると綱吉は、あっと思い出したように声をあげ片手に持っていたビニール袋を漁り、中から可愛らしい模様の入ったフィルムと赤いリボンでラッピングを施されたカップケーキを取り出し、雲雀へと差し出した。


「えっと…今日、雲雀さん誕生日なんですよね?」


だから、これ…と綱吉から包みを手渡され、雲雀はやっと今日が自分の誕生日だったことを思い出した。


「母さんに教えてもらって作ったんです。味見はしたんで大丈夫だと思うんですけど…」

「ありがとう、綱吉。そうか…今日僕の誕生日だったんだね」

「そうか…って、もしかして忘れてたんですか?!」


納得した素振りを見せる雲雀に、綱吉は口をあんぐりと開けて驚いた。
大袈裟な程の反応を見せる綱吉に苦笑すると、雲雀は綱吉の頭をポンポンと撫でた。


「別に小さい子じゃあるまいし、わざわざ祝ってもらう必要なんてないだろ?」


だから忘れていたのだと告げると、綱吉は呆れた様な表情を浮かべ深く溜息を吐いた。


「だから俺に今日が誕生日だって教えてくれなかったんですね…」

「そういえば、君はどうして僕の誕生日が分かったんだい?」


教えていなかったのにどうして知っているのかを問うと、リボーンに今朝言われて知りましたという返事が返ってきて、雲雀は妙に納得してしまった。
あの赤ん坊なら知っていてもおかしくはないな、と。


「前以て言っといて欲しかったです…」

「何を?」

「誕生日のことですよ…今日が雲雀さんの誕生日だって知ってたら、もっとちゃんとプレゼントとかケーキとか…用意出来たのに」


綱吉は眉を八の字に下げ、シュンとした表情を浮かべた。
そんな綱吉を見て、雲雀は申し訳なく感じると同時に、己の為にここまで一生懸命になってくれた恋人に益々愛しさを募らせた。


「ごめんね。だけど、僕は誕生日に綱吉と一緒に過ごせるだけで嬉しいよ」


だから、そんな顔しないで?と綱吉の細い身体を抱き寄せて唇に触れるだけのキスをしてやると、綱吉は嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃ、今から二人だけでお祝いしようか」

「は、はい!じゃあ俺、紅茶入れてきますね」










その後、二人で小さなカップケーキを分け合いながら、他愛もない話をしながら過ごした。





温かく甘い紅茶の香りに包まれた応接室で、

来年の今日もその先も、

ずっと一緒に過ごそうと誓いあいながら…。












End

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