□もう遅いんだ
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「阿散井、今までありがとな」

「…いえ、こっちこそ」

情事の後、檜佐木さんは俺の頭を撫でて部屋を出て行った。


「お幸せに、」


俺は一人、呟いた。



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「朽木隊長、書類を…あれ?」


あの日から数日経った午後、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「隊長なら今はいないっすよ、檜佐木さん」

「おぉ、阿散井!じゃあコレ頼んでもいいか?」

「いいっすよ」


俺たちは、恋人なんて特別な関係なんかじゃなかった。
俗にいう、セフレってやつだ。

ただ単に檜佐木さんに彼女が出来た。
セフレと云う関係が無くなるには十分すぎる理由だ。

そして、何も無かったかのように先輩と後輩の関係に戻る。


「彼女とはどうなんすか?」

「ん?順調だ」

「そりゃあよかったっす」


自然と口から出る彼女との関係を探る言葉。
少なからず、俺は檜佐木さんに好意を持っていたようだ。

まあ、好意が無かったら絶対抱かせねえけどな


「あ?なんだよ、妬いてくんねえのか」

「誰が妬くか」


ニヤリと妖艶に笑う檜佐木さんを鼻で笑ってやる。

檜佐木さんのそうやって笑った顔、俺は好きなんだ。

「でもよ〜これからどうすんだ?」

「どうすんだって何がっすか?」

「相手、居ねえじゃん」

「…は?」

困ったように頭を掻く檜佐木さんを見て、彼が言いたいことを理解した。

「俺のことは気にしないでいいっすよ、彼女と幸せになって下さい」

「でもよ、」

「大丈夫っすよ、ちゃんと相手ぐらいいますから」


へらりと笑えば、僅かに檜佐木さんの眉間にシワが寄った。


「じゃあ、俺は十一番隊に書類届けてきますね」

書類を拾い、笑顔を浮かべたまま、半ば逃げるように檜佐木さんから離れた。

さよなら、檜佐木さん。
俺、アンタが好きだったみたいだ。

でも、檜佐木さんを困らせる訳にはいかねえんだ。

俺は泣きそうに歪んだ顔を誰にも見られないように隠した。





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「おい、阿散井」

「…!更木隊長っ?」

十一番隊に向かっている途中で名前を呼ばれたと思ったら、庭の木の影に引きずり込まれた。


「泣きそうな顔しやがって、何があったんだ?」

「…!」

「言いたくねえんならいいが、」

「更木隊長?」

「檜佐木と居るのが辛いなら、いつでも俺んとこに来いよ」


ぐいっと引き寄せられてキツく抱きしめられ、心が落ち着いて行く。


「…なんで檜佐木さんとの事、知ってるんすか?」

「あぁ、勘だ」

「えぇ!?」

「鎌掛けた。性格悪ぃだろ?」

「今更じゃないっすか?」

「テメェこの野郎」


あれだけ泣きそうだったのに自然と笑えていて、改めて更木隊長はすげぇ人だと思った。




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