2つの世界の御伽噺
□5ページ 恐怖の対象
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食事をしていると、悲鳴が聞こえた…イーズの悲鳴が。
…いや叫び、か。
「イーズっ!」
急いで廊下を駆ける。心配した宿屋の若店主も一緒に来てくれていた。
部屋まで着いて荒々しくドアを開け放つ。
「イーズ!どうしたの!?」
部屋の中に入り込むと、怯えて床に顔を蹲(ウズクマ)らせているイーズの姿が真っ先に目に入った。
そして、そのすぐ側にある赤い紅い物体。私が部屋を出た時にはこんなモノ無かったはず。
「っ…!?」
近づいて物体を確認して、背筋が凍りついた。
そこには真っ赤な菊の花があった。
「コレに怖がってるんだ……」
「なっ、コレは…」
部屋に入って来た若店主も驚いていた。目を見開いて状況を整理しようと必死だった。
「イーズっ、イーズ!」
身体を揺すっても、荒い息遣いが返って来るだけだった。重症か…最近は血を見ていなかったから…。
「フィ……リ、ア」
「大丈夫。大丈夫だから」
「はぁ…はあ…はぁ…」
「落ち着いて、深呼吸して」
イーズは床から這い上がり私に寄りかかって来た。普段なら半殺しする所だが、今回はしょうがない。しがみ付き、息を咳(セ)かせる姿は見ている人の方が辛かった。
「お客さん。水でも持って来るよ」
「ありがとう」
気の利く若店主は厨房の方へ駆けて行った。
「血が…、血っ…」
「血なんて見てないから。イーズは、何に怯えてるの?」
そう言い聞かせながら、霊魂(レイコン)を使って紅い物体を焼け焦がした。イーズの目に触れさせない方がいいだろう。
「怖いっ…怖いんだ…」
「何が?」
「いなく…なるっ!」
急に声を荒げたかと思うと、更に強い力で私の服を握る。するとイーズの目元から涙が流れた。
「父さんが…母さんが…アイツが…フィリアがっ」
「…私が?」
「消えて、無くなる…」
形を、存在を確かめられるように抱き締められる。脳内では殴り殺したいと思いながら、ほっとく事にした。
…我慢我慢。
「水持って来たー…けど…お邪魔だったか?」
「…この状況で気を遣わなくていいから」
「いやいや遣うから。未婚の男女がお互いを確認しあうように抱きあっているのを見たらそりゃあ興奮すr「黙れ」……」
一つ言い忘れていたけど、この若店主は変態だ。さっき食堂に行ったら食事を一緒にしないかと誘われた。
とても不本意だが、申し出を受けた。
店主のくせに何で食堂でご飯食べているんだ、と募る疑問は山ほどあるが、総スルーしている。
初対面の相手に、あれだけ変態を発揮出来る若店主を心底軽蔑したが。
多分、イーズとかなり気が合うだろう。
「興奮するのは冗談だけど、君らの身長差見てると犯罪にしか見えないっていうか…」
「…(軽蔑の眼差し)」
「スンマセン」
「フィリアっ…フィリア…」
「イーズ。私は、消えないよ」
店主を黙らせ、イーズを言い聞かせる。
何度も私が言えば落ち着いて来たのか、私に寄りかかって寝てしまった。私が潰れそうになるのを、若店主は笑いを堪えながら助けてくれた。
イーズをベッドに寝かせ、寝顔を覗き込む。
…泣いて寝るなんて赤ん坊みたい。
と思ったのはココだけの話。
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