2つの世界の御伽噺

□6ページ 時間の経過
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「………あぁ……?」


俺が目を覚ましたのは、日がどっぷり浸かった後だった。窓から入って来るのは月明かりだけで、室内は真っ暗。


「……そうか、またか…」


上半身だけ起こし、額に手を当てた。

また、血で怖がってしまった。やっぱりアレばっかりは、どうにもならない程に恐怖を感じてしまう。

記憶がフッ飛びそうになって、思考回路が停止する。

あの赤い色を見たら、アイツが――――。


『…アハハッ。何驚いているの?兄さん』


血溜まりの中で、笑って――――そして。


「…お、やーっと目が覚めたな、アンタ」
「っ!?」


突然声を掛けられ、ビクリと身体が震える。声のした方を向けば、俺と同い年くらいの青年が立っていた。


「……誰だ?」
「俺はここの宿屋の店主。若店主って呼んでくれ」
「はぁ?何で店主…じゃなかった若店主が俺達の部屋に…」
「そりゃあ、アンタの安否確認を任されたからな。役目は全うするのが筋だろ?」
「いや、何で若店主が安否確認するんだよ。普通フィリアが――」


そこまで言いかけて、俺はハッとして隣のベッドを見る。そこは、朝見た光景と同じく綺麗に整頓されたベッドがあった。


「なあ、俺と一緒にいた女知らないか?」
「小さいお客さんならちょっと出掛けて来るって言って出て行ったぞ」
「は?知り合いだったのかよ」
「食堂で相席した仲だ」
「殆ど初対面じゃねーか!というか、何でこの宿屋の店主が食堂で食ってんだよ!?」
「ま、そこは気にするな。それより――」


俺の話を遮り、若店主は急に真面目な顔になる。何かあるのかと思い、静かに言葉を待っていると…。


「お客さん何も食べてないんだろ?俺特製の料理、振舞ってやるよ」



△△△



「うおっ!何だコレ美味い!!」
「そりゃあ良かった」


若店主が(無理矢理調理人退出させて)厨房で作ったのは、野菜がたくさん入ったシチューだった。ものの数分で作り終えていたので、予(アラカジ)め下準備をしていたのだろう。

それを今、人気(ヒトケ)の無い食堂で御馳走になっている。


「俺、旅してる中でこんな美味い料理食べた事ないな」
「あんまり褒めんなよ。照れるじゃねえか」
「照れとけ照れとけ。こんなに優しい客、もう二度と来ないからよ」
「…そうだな。小さいお客さんも親切だったしな」
「いや嘘だろ。フィリアが親切にしてる所なんて見た事…」
「お客さん、怒られるぜ?ずっと付きっきりで看病してたのはあの子なのによ」
「…え?」


その言葉を聞いて、食べる手が止まってしまった。

フィリアが、付きっきりで看病…?

そんな訳ない、と反論しようとしたが、またしても若店主に遮られる。


「三日三晩食事もロクに取らずに看病してたんだが…。今日は、”探しモノが見つかった”とか言って俺にお客さんの事任してどっか出掛けてな」
「探しモノ…?」


フィリアが探しモノをしていたのは初耳だった。道中、そんな話を一回も聞いた事がなかった。

…って、あれ?

……三日三晩…?


「ちょっと待った若店主。俺、どれくらい寝てたんだ?」
「さっきも言っただろ、三日だって。…いや、正確には三日と半日、か」
「そっ、そんなに!?」
「あぁ。というか、今更そんなに驚いてどうしたんだよ?いつもの事なんだろ?三日ぐらい昏睡状態に入るのって」
「そんなのが頻繁に起こってたまるか!」
「?…けど、小さいお客さんがそう言ってたけどな。長い時には一週間くらい眠ったままだったって」
「なん……だって?」


また眩暈がしそうになった。

昏睡状態が普通?

そんなのありえない。

だって俺は、何時もその日の内に目を覚まして…。


『いつまで昼寝してるの?イーズ』


フィリアに聞いても、半日しか眠っていないとしか言っていなかった。

まさか…本当は、三日ぐらい寝ていたなんて。

いつもいつも、フィリアは傍で看病してくれていたのか…。そして、俺に嘘を吐いていたのか。

俺に精神的な負担をかけない為…と自惚れてもいいのか?


「苦労してんだな。その体質…というか、トラウマ」
「…まあな」


それぐらいしか返事出来なかった。フィリアがどこまで話したのかわからないが、この話振りなら血の事を殆ど知っているんだろう。


「良い旅仲間だな、小さいお客さんは」
「…ホントだよな…」


一筋だけ、涙が流れた。

フィリアは俺にはもったいない位の、いい相棒だ。



...end
 

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