桜ヶ丘生徒会長日誌

□生徒会長と親衛隊2
1ページ/1ページ

.


親衛隊との交流会、最終日。

学内の雰囲気も初日に比べたら緊張は和らいでいて、見張りを担当していた教師陣もどこか安堵の表情を見せていた。

それは常に親衛隊に張り付かれていた生徒も同じ事で、橋本も例外ではなかった。

「あぁ、疲れた……」
「珍しいな。お前が疲れを出すなんて」
「それを言うなら、クロもここに顔を出すなんて珍しいね」
「今日は、比較的姿を現しとくんだよ」
「ふぅん、そう」

唯一校舎内で親衛隊と離れて自由が効く生徒会室で、クロは顔に疲れが出ている橋本を見つめる。大抵弱い所を見せないように努力している橋本だから珍しかった。

「……大丈夫そう?」

橋本からの唐突に投げかけられた問い。何が、など聞かなくても分かる。だからこそ、返答に困った。

「……たぶん」

少しの間の後、クロはそう答えた。最後のミーティングの教室を探し当てられるかは親衛隊次第だし、忠告はしても実際どれだけ警戒するかは嵐次第だ。

結局クロ自身が何かする事も出来る事も少なくて、自分がどれ程に無力なのかを痛感した。

「そこはさ、嘘でも大丈夫だって答えるんじゃない?」

橋本が笑いながら言う。確かにそうかもしれない。けど、やはり誤魔化すには内容が内容なだけに出来なかった。

嵐にもし何かあったら、大丈夫だと確信して過信していた時、どう懺悔すれば良いのか分からない。かと言ってその不安を何かあった時の言い訳にするつもりも無いけれど。

「その嘘でアイツに何かあったらどうするんだよ」
「それもそうだね」

そうして静かに椅子にもたれ掛かり大きく深呼吸をした橋本に、クロは声をかける。

「……大丈夫か?」
「何に対して?」
「お前の事だよ」
「いくら祐と話して気分を紛らわすって言っても、四六時中興味ない人間に張り付かれたら疲れるよね」
「……まぁな」

好きな話をしても近くに他人がいると完全に気が休まらないのだろう。ましては橋本は周りの理想像を演じてる部分が大きい。その分心的疲労が溜まるのだろう。

「クロは良いね」
「親衛隊がいないから?」
「いないって思ってるのは奏くらいだよ。君の所の親衛隊は優秀だから良いね、って意味だよ」
「っ」

橋本が馬鹿にしないでくれと言うような目でクロを見た。つまり、嵐は未だにクロには親衛隊がいないと思っているという事だ。

「奏はたまに馬鹿だからね。普通言わなくても分かるもんだけど、それに関しては隠してないのに勝手に存在してないって思ってるんだもん」
「……」
「まぁ、僕の心配はしなくて良いから君を心配する親衛隊の子達の為に早く奏の事を終わらせてよ」
本当に、橋本は食えない奴だ。どこまで知っていてどこまで伝えようとしているのか読みにくい。
「……お前には適わない気がするわ」
「奏に適わないクロが僕に勝てる訳ないでしょ。分かったら帰って働いてきなよ」

ヒラヒラと手を振られ、クロは溜息をつきながら扉に手をかける。

「……じゃあ、またな」

今日また会うことにはならないように、と願いながらクロは橋本の背中合わせに歩き始めた。

.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ