桜ヶ丘生徒会長日誌
□生徒会長と親衛隊
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「……何日経ったっけなー」
いつもの芝生の上で、生い茂った木々に囲まれた森の中で、クロは仰向けに寝転び何も無い空を掴んだ。そして指を二本折ると、数える事を止めた。
「……ダメだ。分かんね」
ころんと向きを変えて、クロは呟いた。
クロが嵐に歩み寄らなければ、嵐に会わないなんて凄く簡単だ。会おうとする努力よりも、よっぽど。作るより壊す方が簡単なんてよく言うけれど、本当にその通りだ。
「……呆気ね。つーか、俺ダサ」
自分がかなりの臆病者なのだと、初めて知った。こんなにも、嵐から暴言を吐かれて、正式に友達関係に終わりを告げられる事が怖いなんて思わなかった。
「自分から言うのは、あんなに簡単なのにな……」
そしてまた、何もない場所に手を伸ばして、空を掴む。
嵐を抱いた代償がこれならば、仕方無いのかもしれない。会わないなんて、当然の事かもしれない。
「……白野様」
クロが目を閉じた時、芝生を踏み締める音と共に自分の本名を呼ぶ声がした。その声で相手が誰か分かるので、敢えてクロは体勢を変えない。
「楠木(くすのき)か……。どうした?」
「今日は松崎祐、どうしますか?」
「……最近アイツ来てたっけ?」
「昨日来ました」
「なら……今日は良いや」
「分かりました。ではそのように……」
方膝を地につけてそう言った楠木は、クロの親衛隊の隊長で三年生。楠木自身、ファンクラブがあるような、男らしい人間だ。
そんな生徒が自分にこうした態度を取る事に、クロはまだ慣れない。もう半年経ったというのに…。
「……なあ、楠木」
用事は終わったと、すぐにその場を離れようとしていた楠木をクロは呼び止めた。
「なんでしょうか、白野様」
「んー、ちょっとこっち来い」
クロはあぐらを組み座り直して、楠木を手招きをする。「……失礼します」と楠木は恭しく礼して、クロに一歩近付いた。
「もうちょっと……」
クロと楠木の間の距離が一メートルはある場所で楠木が立ち止まるので、クロは更に手招きする。
「しかし、これ以上は……」
親衛隊の中で決まり事でもあるのだろうか。楠木は距離を縮める事を躊躇う。クロはそれが焦れったく、眉を寄せた。
「俺が許可してんだよ。ここまで来い、楠木」
クロは自分の手の届く場所まで来るよう指示する。
「……分かりました。では、失礼します…」
流石にクロにそこまで言われたら逆らえないのだろう。楠木は恐る恐る歩み寄る。
とは言え、クロの思う位置よりは遠かったので、クロは楠木の手を引いて後ろから腰に手を回した。
「っ、白野様っ」
「なぁ、楠木……」
「白野、様……お離し下さいっ」
暴れる楠木を抑えて、クロは耳許で囁いた。
「俺の相手してくんねぇ?」
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