コトノハの箱

□☆小咄玉手箱
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☆最初の未来篇

秋の風が肌を掠め、徐々に寒くなりつつあるこの日、私九軒ひまわりは久しぶりにその寺の門をくぐった。

「ぴ」

私の肩の黄色い小鳥…蒲公英が目をキラキラさせて鳴いた。

「あ、百目鬼くん!」

百目鬼静…、この寺の次期住職で私の同級生。

「…九軒」

相変らずの表情で出迎えた紺色の羽織りを着ている彼は…前より落ち着いてみえる。

年月のせいだけではない。それは…。

どっ。

その彼の肩に突然、のしかかった…飛び交ったものが。

「父さま」

彼の肩に飛びついたのは、目の大きい可愛らしい子供だった。

「父さま」

「おう」

百目鬼静の事を「父」と呼び、腰(子供なので肩から腰に変更)に飛びついてきた水色のワンピース姿の幼子。

ひょいと抱き上げそのまま肩車の体勢にする彼は立派な父親である。

「こんにちは、ひまわりお姉ちゃん、蒲公英」

幼子は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「ぴ」

「こんにちは、大きくなったね」

以前見たときはまだ彼に手を引かれよちよち歩きだったのに。
…人の子は大きくなるのが早いと思う。

「あのね、母さまが呼んでたよ」

幼子は言った。

「そうか、…九軒、あいつもお前に会いたがってる…行くぞ」

「本当?私も会いたかったの…ずっと」

幼子を肩に乗せた羽織姿の彼は、くるりと背を向け本堂の方へ向かいだした。

石畳の上を歩き、本堂に着くと、彼の父と母が客人の相手をしていた。

「おや、静くん、この度はおめでとう」
客人は突然彼の姿を見つけると近寄ってきた。
彼は肩車の幼子を抱き変えると相手を始め…聞いていると今度の彼岸の事などを話しているから檀家さんなのだろう。

「立派な跡継ぎに恵まれてこの寺も安泰だね」

そう言って幼子の頭を撫でた。
水色のワンピースを着ているが…幼子は男の子なのだ。

「お久しぶり、九軒さん、今日は来てくださって有難う」

そう言って出迎えてくれたのは百目鬼静の母親だった。

「この度はおめでとうございます、おばさま」

彼女は屈託のない笑顔を見せる。

「もーっ、そうなの嬉しくて♪さやちゃん、ばばのとこおいで」

彼女は百目鬼の腕の中の孫に手を広げ言えば

「何をいう、さやはじじが好きなんだぞさあ、じじのとこへ」

百目鬼の父が対抗して手を広げている。
二人はすっかり可愛い孫に夢中だ。

「ん、さやは父さまがいい」

そう言って百目鬼に抱き付く幼子。

ほぎゃあ。

母屋から聞こえてきた声に一同其方に向いた。

「あ、泣いた」

百目鬼の腕にいた幼子は降りると、母屋に走って行った。

「おめでとう、百目鬼くん」

にっこり笑いかけると、

「…おう」

彼は少し照れてるらしかった。

「ひまわりちゃん!」

声の方向を見ると、母屋から懐かしい顔が見えた。

「四月一日くん!…って今は百目鬼くんだっけ」

幼子に手を引かれ出てきたのは水色の着物に身を包んだ四月一日くんで、嬉しくて駆け寄った。


「ひまわりちゃん」

彼?の腕の中には白い絹の産着に包まれた赤子が抱かれていた。

「おめでとう、私も嬉しい」

私が言うと、肩の蒲公英がが羽を羽ばたかせ彼の肩に留まり…彼の頬にキスをした。

「蒲公英も嬉しいって」

「…ありがとうひまわりちゃん」

そう応え、優しい微笑みを向けた彼を、傍らの百目鬼くんは暖かい眼差しで見守っていた。

「うわあ、可愛い」

彼?の腕の中のむずかった赤子に私は声をあげた。

「良かった、無事生まれてきてくれて…聞いたよ、一時期危なかったって」

「…心配かけてごめんね」

優しい微笑みを向ける四月一日くんに私も笑みを返す。

傍らの百目鬼くんを見ると上の子を抱き上げ共に産まれてきた命を見つめていた。

…そう、この子が産まれる時に色々あって…百目鬼くんがいなかったら今彼は此処にいなかったという。

…私は『彼女』から後にきいたのだけれど。

ふぇぇ。

四月一日くんの腕に抱かれている赤子が泣き出した。

「はいはい」

あやす四月一日くんの顔は立派なお母さん。

私は嬉しい。

「かしてみろ」

その時上の子を抱き上げていた百目鬼くんが優しく下に子供を下ろすと…四月一日くんから赤子を抱きとった。

不思議な事に泣き止む赤子。

「さやもそうなんだけど、あの子も酷くむずかると…あいつ、う…だ、旦那様の方がいいみたいで」

私は「旦那様」の所で恥ずかしがってる四月一日くんに吹き出してしまった。

「何照れてんだ?今更」

こんっと百目鬼くんが四月一日の頭を小突いた。

「だ、だって恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ…だ、旦那様って」

真っ赤になって照れてる四月一日が妙に可愛く見える。

二児の母?となっても変わらないなあ…四月一日くんは。

私は嬉しくて微笑んだ。
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