コトノハの唄

□『Key』
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☆『key』


「うわ、鍵型だ」

四月一日は呟いた。

今日はバイト先の『願いを叶えるミセ』の女店主、壱原 侑子に連れられデパートへやってきたのだ。

何時もの思いつきの買い物に四月一日はうんざりしながらも色々な家庭雑貨やデパ地下の食品たちを見て楽しんでいた。

「アタシちょっと化粧室にいくから」

侑子はそう言うと一人化粧室へ向かう。
四月一日は偶々近くにある特設会場バレンタインチョコレートコーナーがあるのに気づき見ていた。

「ゴディバとか流石高いけど美味しそうだな」

目を楽しませる数多のチョコの中、その中でも目を引いたのは、キャギ ド レーブの鍵型チョコだった。

ビターやマイルド味の鍵型のチョコと錠前のチョコがあり、味が楽しめるもので、ついつい四月一日は買ってしまっていた。

鍵型と言う形で何となく買ってしまった四月一日。
だが見た目にも美しい鍵型と鍵穴のチョコは、百目鬼と食べられたら、と思った。

偶には二人で美味しいチョコを、なんて気持ちが少しはあったかも知れない。

「お待たせ♪」

戻ってきた侑子にそれを隠しその日は帰ったのだ。




「…百目鬼くんにはチョコ用意したの?」

朝食を食べ終わった侑子は、分かってるかの様にクスクス笑いながら言う。

「な、何であいつなんかに…っていうか、明日ひまわりちゃんと彼女の友人達にチョコケーキやクッキーの先生役を頼まれて、家庭科室で…その時に」

ガチャガチャと食器の音立てながら片付ける四月一日。

「…ふうん、上手くいくかしらねえ」

侑子は悪戯っぽく笑う。

「大丈夫です、教えるのは簡単だし」

「アタシが言うのは…まあ、頑張んなさいな」







「嘘だろ」

調理室から忘れものをして教室に戻ってきた四月一日は慌てた。

無いのだ。

キャギ ド レーブの鍵型チョコが。

細工が美しく、一応百目鬼に「義理だぞ」という意味で買ったのだが、何故ないのか。

朝はちゃんとあったのに。

「おかしいな…落とした?…昼もあったのに」


「四月一日く〜ん」

其処へひまわりの声がし、また慌てて荷物を持ち教室を出た。

(チョコが)

不幸は続く。


チョコケーキとクッキー、ホットチョコの四月一日が態と取ってあったものが…冷蔵庫から消えていた。

「…なんで」

「どしたの?」

やってきたひまわりは何事かあったのかと心配げに言う。

「ひまわりちゃんや百目鬼のケーキたち…」

と言いかけて止めた。
まだ調理室には数名の女子がいた。
彼女達を疑うのだけは避けたかった。






「無いのか」

面と向かい百目鬼は言う。
差し出された手。

「…ねえよ」

四月一日は、その手に泣きそうな顔で平手打ちをかました。

バレンタインデーとかイベントデーは、百目鬼は引っ張りだこだ。

一年から三年まで沢山の女子が百目鬼にチョコを贈り告白する。

今年のバレンタインデーのチョコはダンボール一箱だ。
ムカついた。
許せなかった。
こいつだけモテる事も、沢山チョコを貰う事も、自分がチョコを素直に上げられない事も。

情けなかった。

あの無くしてしまった鍵型のチョコも、ひまわり達と作ったチョコも、クッキーも何故か無くなってしまった事も。

「お前からチョコ貰ってねえ」

やっと遭えた百目鬼はそう言った。

カチンときた。

思い通りに事が運ばない事もあって、不満が爆発したのだ。
百目鬼に当たっていた。

「ねえよっ、そもそもお前に何でバレンタインチョコやんなきゃなんねえんだ!」

泣きそうな顔を浮かべ掠れた声をあげる。

「…分かった」

百目鬼は何か言いかけたが、小さく息を吐くと其の場から歩き出した。

「…え」

「帰る」

そう言い残して。
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