コトノハの唄
□Light up
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これは私が以前夢で見た話を元に作られています。
私は夢を毎日の様に見ますが、その中でも余りにも悲しかった夢、単行本が出る前だったんでまあまた視たのかなあなんて思いますが(笑)
余りにも強烈で悲しかったんですが、この話を興すのに少しだけ救いをつけたものにしようかと。
「この世にはどうにもならぬ事が多過ぎる、でも何か必ず救い…希望が」
と…、願いを込め作った話。
題名は私の好きなアーティストCoCooのアルバム「エメラルド」より「Light Up」から。
実際の歌も素晴らしい歌なのでYouTubeなどで聞いてみてはいかがでしょうか。
「Light Up」
では、行ってらっしゃい。
*「Light Up」*
「当分、此処には来るな」
不思議な店、願いを叶えるミセの二代目店主四月一日 君尋はミセの居間で七輪でお餅を焼く男性に告げた。
「なんでだ」
「お前な、つい先日結婚したての新婚さんだろっ、何で新郎のお前が花嫁ほったらかして此処にいる!?」
紫色の着物を纏う店主四月一日は男性を怒鳴りつけた。
「小羽ちゃんを大事にしろ、小羽ちゃんはお前の可愛いお嫁さんなんだぞ、百目鬼っ」
四月一日の言葉に全く動じず焼いた餅を醤油が入った皿に乗せ手早く餅を乗せたのは…百目鬼 静。
二人は腐れ縁の友人であり…、恋人だったのだ。
然し恋人であった二人だが、百目鬼は五月七日 小羽という女性と縁がまとまり先日結婚したのだ。
小羽は四月一日も可愛がっていた少女で…色んな事があり、百目鬼と共に見守ってきた子で、彼女も四月一日を本当に慕っておりミセにも度々来ていたのだ。
少女は大きくなりやがて美しく成長して…、百目鬼の大学の学生となり、先生と生徒となり…晴れて百目鬼との縁が整っての事であった。
何よりも四月一日が祝福した。
恋人であったのに四月一日はその縁を進め、見守り…、そして喜んだ。
「小羽ちゃんが可哀相だろ?新婚の時期は短いんだ、甘えてこい、お前おかしいぞ」
四月一日は息を吐いた。
百目鬼は結婚した次の日から此処…四月一日の所に入り浸りなのだ。
「帰りたきゃ帰る、五月七日は行ってこいと言ってたぞ」
餅をぱくりと食べながら百目鬼は言う。
四月一日はボリボリと頭を掻いた。
「今夜、お客が来るんだ、とりあえず今日は帰れ…そして当分此処には来るな」
四月一日は言う、それは嘘ではない。
客は来るのだ。
「…、」
怪訝そうに見る百目鬼に四月一日は、
「新婚さんには聞かせたくないし、障りがあるといけない、…そんな危ない依頼ではねえし、時期が来ればまた来ていい、頼む」
そう告げた。
百目鬼は四月一日の事を心配する。
何度となく依頼で命を落としかねたりしたからだ。
「マルもモロもいるし…管狐もいる、モコナだっているからな」
「…時期が来たら良いんだな」
百目鬼の眼はギラリと光る。
真意を確かめるように。
「時期が来たらな」
「それは何時だ」
「分かんねえよ、前もあったろ」
長い時で二ヶ月出入り禁止になっていた、が、最近はそんなのも稀だ。
「…わかった」
百目鬼は近くにあったお酒をグラスに捧げ四月一日に差し出した。
「結婚式で配った酒だ…神酒だからな」
何でも知り合いの酒蔵さんからのものだという酒は、結婚式の神酒にも使われたと言った。
「…さんきゅ」
四月一日はグラスを受け取った。
グラスに映る自らの姿は変わらないが、…百目鬼は店を継いだあの時から十年以上が経っていた。
「小羽ちゃんを…末永くよろしくな」
「…おう」
二人はグラスを交わした。
「またな」
珍しくミセの玄関まで見送る四月一日に百目鬼は言う。
「…また、な」
四月一日も答える。
珍しく笑顔で四月一日は百目鬼に告げた。
「…また、いつか」
閉まり行くドアに見えるその姿に四月一日は呟いたのだ。
その足音が遠退く。
「…また、何時か…あえたら」
見えなくなった背中を思い淋しく笑った。
(これはおれが選んだ事)
胸が悲鳴を上げていた。
「四月一日」
それを見ていた黒モコナは訝しげな、厳しい表情で呼んだ。
「モコナ…約束だ、誰にも言うな、そして部屋に近づくな、おれが良いっていうまでな、」
四月一日は着物を直すとモコナに告げる。
「それはかかるのか 、」
モコナは尋ねる。
何があるのか。
「…多分な、おれが…選んだ事だからな、その後は頼んだ」
四月一日は笑った。
そして奥の襖を開けた四月一日の目に映るは深い闇。
口元が不自然に歪む。
「…さあ、楽しませてくれるよな」
闇が蠢いた様に見えた。