コトノハの箱

□未完成な音色
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その日は冬真っ只中なのにヤケに暖かかった。

帰りのホームルームの中、何だか騒がしい。

四月一日君尋の只今の頭の中は、バイト先の我が儘な女店主の今日の夕飯をどうしようか…という事で頭いっぱいだった。

“昨日は魚だったし、今日はどうすっかな…、さっぱりとしたものか…夜は冷えるし、煮物か鍋なんていうのも…”

「…で決定ですね」

学級委員の九軒ひまわりの声に四月一日はハッとしてその方向を見た。

黒板には、学芸会(何だかこんなものがある)の出し物とある。

四月一日の想い人、九軒ひまわりは学級委員故に教壇に立ち、このホームルームを進行している。

今日も可愛いひまわりを眺めつつ、学芸会などはっきり言って面倒くさいと思う。

手先が器用な四月一日は衣装だとか、裏方だろうと考えていた。

黒板の文字を追って行くと、何と劇をやるらしい。(今時何故?)

題名は「白雪姫」。

「…では配役ですが…今年は二クラス合同で行い、主役の「白雪姫」は九軒さんで決定しました」

拍手が飛び交う中、四月一日は可愛いひまわりの姿を思い浮かべ、ついつい顔が緩む。

ひまわりの衣装は彼女の為に可愛くせねばと誓いを立てる四月一日。


「…で王子役は」

四月一日のひまわりの可愛いお姫様姿を打ち砕く現実が待っていたのだ。

「隣のクラスの百目鬼静くん」

がーん、という梵鐘の音に近い音が頭を駆け抜ける。

教室から女子の黄色い声援が飛び交う。

「んな、阿呆なっ」

と四月一日はいつの間にか叫んでいた。

クラス中から集まる視線に、ハッとなる。









「聞いてくださいよぉ〜」

四月一日はバイト先に着くなり雇い主の女店主の前で喚きちらした。

「…四月一日〜、アタシは二日酔いなのよ…いたわりなさいな…」

居間にある籐製の椅子にもたれた女店主の顔は赤い着物をはだけさせ、その顔を青ざめてさせている。

「二日酔いなんて病気じゃありませんっ、ギャー、酒瓶があちこちに」

半分泣きべそをかきながら四月一日は手際よく酒瓶を拾い集めていく。

「ひまわりちゃんが、大好きなひまわりちゃんが白雪姫で、王子役があの鉄面皮のっ」

「…あ〜、あの色男ね」

侑子は額に四月一日の用意した氷嚢を充てて言った。

「ムカつくアイツですよっ、百目鬼っ!か〜っ、ムカつく」

ギリギリと歯軋りをしながら部屋を片付けていく四月一日。

「…でもエンジェルさん事件では随分お世話になったじゃない」

侑子はちらりと四月一日を見る。

「それはそれ、アイツムカつくんですよっ、事ある毎につっかかってくるし、弁当だって命令してくるしっ、おれの大好きなひまわりちゃんまで取ってからに」

四月一日は泣き喚く。

実はこの時エンジェルさんの事件から程なくしか経っておらず、ひまわりと共に百目鬼とお弁当は食べる仲ではあったがまだお互い気持ちを自覚したわけでは無かった。

「それはひまわりちゃんに嫉妬してるの?」

「は?何言ってんですかっ!アイツがひまわりちゃんの相手役なんて認めないって言ってんですよっ」

じぃ〜っと侑子は四月一日を見つめ、

「あ、そう」

ふふんと鼻を鳴らした。

「も〜っ」

聞いて下さいっと怒る四月一日に、

「四月一日〜♪」

と幼い二人の少女マルとモロがまとわりついた。

「四月一日、主様病気、液キャべとまたお酒〜」

と言うものだから、ため息を付き台所へ消えた。


「…あらあら、まだわかってないわね…その胸のキモチ」

その後ろ姿に、くすくすと侑子は笑った。

彼女が座る椅子と同じ籐製のテーブルに紫色の綺麗な小瓶があった。






「ひっまわりちゃ〜ん、お昼行こう♪」

ツインテールの可愛いひまわりにハートマークを沢山出しながら四月一日は言った。

「ひ…」

見ると、教室から出た所でひまわりが楽しいそうに話している姿が見えた。

「…」

その相手は事もあろうか百目鬼で、何時もなら割込む所だが割り込めない妙な雰囲気が二人にはあった。


…ちくん。

と四月一日の胸が痛む。

仲の良さそうな二人の姿。

「あの二人付き合ってるんでしょう?」

誰かのその言葉にちくんと痛む胸。

百目鬼に?

ひまわりちゃんに?

ちくんと胸が痛んだ。

「何呆けてる」

四月一日の手が急に軽くなった。

「百目鬼っ」

百目鬼がいつの間にか四月一日の手の中のお弁当を取ったからで。

「今日は日の当たる階段で食うぞ」

「何お前仕切ってるんだよっ」

「行くぞ」

自分など構わないようにすたこら歩き出した百目鬼を四月一日はキリキリと眉を上げて睨みつけた。



「あ、水筒忘れた」

お弁当タイムが始まり四月一日は慌てた。

「ごめん、何か買ってくるから、ひまわりちゃんは何が良い?」

「…ごめんね、じゃ緑茶で」

「イチゴミルク」
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