小説
□その想いの先
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人通りの多い道をずんずん進んで行く赤い髪の少年がいた。
その後を桜色の髪をした少女が「すみません」と言いながら人をかき分けていく。時々見失わないように走りながら・・・・
●その想いの先●
「チナミくん、待って!」
チナミと呼ばれた赤い髪の少年は立ち止まり振り返った。
「どうした、ゆき。なにかあったのか?」
「・・・・そうじゃないけど・・・はぁ、はぁ」
チナミのペースについていけない少女の名は ゆき 。
息を切らせながらも必死にチナミについていこうとしたが、姿が見えなくなりそうだったので呼び止めてしまったのだ。
「・・これくらいで疲れたのか。もう少し体を鍛えたほうがいいんじゃないのか?」
「・・・そうだね」
苦笑するゆきをみて、チナミは顔をしかめた。
そして、チナミはゆき近づきその手を取った。何も言わずに前を向いて歩き出したが、その歩調はゆきに合わせたのもで、先ほどよりも遅い。
ゆきは、驚きの目でチナミを見たが彼は振り向こうとはしなかった。
「・・・すまない、俺の歩みが速すぎたようだ。」
小さな声だったが、確かに前を歩くチナミの声だった。雑踏の中でもはっきりと聞き取ることが出来たのは、なぜだろうか。
小さな疑問がゆきの中に芽生えたが、前方から「ゆき!」と呼ぶ都の声が聞こえたので深く考えることが出来なかった。
ゆきが自分の気持ちを考えるのも、知るのも、まだまだ先のことであった。