小説

□ちょっとだけなんて・・・嘘
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私は命が尽きてもいい・・・みんなを守りたい・・・

それだけのために、ここまでやってきた。苦しくても、みんなが私の具合の悪さに疑問を覚えても嘘をついてきた。私が何も考えずに行動して消えてしまった前の世界のようにしたくなかったから・・・。

消えてしまったみんなの命に比べれば、私一人の命なんて尽きてもいいの。
大切な、大好きなあの人が生きててくれるなら、幸せになってくれるならそれでいい。


・・・本当に思ってたの。でも、私があの人の隣に立って、あの人と幸せになりたいって思ってから、命が尽きることが、死んでしまうことがちょっとだけ・・・怖くなった。

・・・・これは、私だけの秘密・・・


ちょっとだけなんて・・・嘘


龍馬は一人、縁側で考えていた。

最近のお嬢は体調が悪いみたいだ。本人は「大丈夫」といっているがまったくそうは見えない。瞬にも都にも何も話していないみたいだ。青い顔で「大丈夫・・・」というお嬢を見るのは結構つらい。俺は、俺たちはそんなに頼りないのかって強く言いたくなる・・・。でも、そんなことしたらきっと彼女はさらに口を閉ざしてしまう気がした。だから、全員何もいえないんだ。

きっと龍馬の思いはともに行動している皆が思っていることだろう。自分たちが守らなくてはいけない神子が何かを抱えていて、それを話してくれないのがもどかしい・・・。

「どうして、なんにも言ってくれないんだ お嬢・・・」

龍馬の呟きは月夜の闇に消えるはずだった。

「・・・どうかしましたか?」

龍馬は耳を疑った。声が聞こえるなんて思わなかったし、その声の主がゆきだということに驚いた。
彼女のほうを見ると月明かりのせいなのか顔色は、あまりいいとは言えなかった。そんな少女の顔を見ると、さっき思っていたことが口に出そうだったので月を見上げて笑った。

「いんや・・・どうもしてないぜ。お嬢はどうしたんだ?こんな夜に」
「・・・ちょっと・・嫌な夢を見たんです。もう子供じゃないのになんだか眠れなくなって・・・」
「どんな夢だったんだ?話せば少しは怖くなくなるかもしれん」
「・・・・・・」
「・・・お嬢?」

いつもならすぐに何らかの反応があるはずなのに、まったく反応が無い。不思議におもいゆきを見ると彼女はうつむいていた。しばらくその様子を見ていた龍馬だが、彼女の顔から光る雫がこぼれたのに驚いた。
「お嬢!!」

龍馬の声が聞こえていないのか、ゆきの手で顔をおおって泣き出した。大きな声ではなく、静かにすすり泣いた。
龍馬はとっさ彼女を抱きしめた。あやすように優しく頭と背中を撫でてやった。腕の中で驚く気配があったが、抵抗はされなかったので、そのまま続けた。
落ち着いてきたのかゆきは口を開いた。

「・・・どこにも・・・いかないで・・くっ・・だっさい」

嗚咽交じりのゆきの声にどう反応していいのか、分からなかった。彼女の表情を見ようとしたが、ゆきの手が龍馬の着物をしっかりと握っているので表情をみることは叶わなかった。しかし、何か言わなくてはいけないと思った。

「お嬢、大丈夫だ。俺はどこにもいかない。嫌な夢の中だろうと俺が助けに行く。お嬢から離れたりはしない。大丈夫だから、もう休みな、お嬢・・・朝には俺がちゃんと起こすから、お休み」

龍馬の言葉に安心したのか、ゆきの手から力が抜けた。

「りょ・・・まさ・・・ごめ・・い」

龍馬の言葉に安心するようにゆきはことりと眠りに落ちた。やはり疲れていたのだろう。

「あーあ、可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃだ。・・・それも可愛いんだけどな。」

次こそは本当に独り言になった。涙のあとをぬぐってやり、出て行ったゆきの帰りを待つ都がいる部屋に向かった。






ゆきが見たのは、龍馬が死ぬ夢でも自分が死ぬ夢でもなかった。ただ龍馬の隣に自分以外の女がいて二人が幸せそうに笑っている夢だった。


・・・死ぬことが怖くない、とは言わない。でも、貴方の隣にいれないことがとても怖い・・・
・・・・やっぱり私は・・・死ぬことが怖いのかも知れない・・・・

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