nitty-gritty

□憂鬱
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「まあ、そんな台詞は刀を交えてから言ってほしいもんです。…おっと失礼。私が言える立場じゃないですね。」
おどけたように楓は左手を頭の後ろに回して言う。銀時はそんな楓を見てニヤリとした。相変わらず感情はないが、まるで佐々木の口調だ。

「貴様がこの僕に勝てるとでも?馬鹿なことを言うな!!」
そう怒鳴ると、九兵衛は刀を振りかざした。キィンと金属のぶつかり合う音が響き、楓は刀を受け止める体勢となった。
「確信はありませんね。ただ、昔の感覚が戻ってさえくれればいいんですが。」
「その前に殺す!!」
圧倒し続ける九兵衛の刀を受け止める度に後ろに下がっていた楓はとうとう壁に背がついた。
「…。」
「どうした?まだ思い出せないか?」
鼻がつきそうな距離にニヤリと笑った九兵衛の顔がある。楓は九兵衛と対峙したまま、壁から背を離し、壁に沿うように後ろへ下がり始めた。
「終わりだぁ!!」
九兵衛は刀を横から振りかざした。今までより一番速かった。
それを楓は刀で受け止めると、まるで腕相撲のように力で床へと刀を叩きつけた。木っ端微塵になった九兵衛の刀をよそに、楓は刀を持ち上げると、九兵衛の腹に向かって振りかざした。
「楓っ!!」
銀時の声で我に返った。ピタリと刀が止まった。あと少しで九兵衛の腹を裂いてしまうところであった。楓は暫く固まっていたが、一つ瞬きをすると、刀を下ろした。
「…まあ、決着は着いたということで。刀、ありがとうございました。」
楓は唖然とする九兵衛に刀を渡すと、背を向けて銀時らの方へ歩き出した。

「楓!!まだネ!!」
神楽の言葉に振り向けば、九兵衛は飛び上がり、刀を振り上げていた。
「間に合わねぇ!」
銀時は五メートル程離れていた楓に自分の木刀を投げる。九兵衛の方が速かった。
「困りましたね。これ、ワルサーだったらよかったのに。」
そう言って楓は懐から拳銃を取り出し、カチャリと安全装置を外すと、九兵衛に向けた。
「今日はポーチ持ってないはずアル!」
神楽が驚いたように叫ぶ。
「そんな軟弱な物は僕には効かない!」

「撃つなよ!」
「撃ちますよ。」
銀時の忠告も聞かずにパンパンと何度も引き金を引く。
「九ちゃん!!」
お妙が悲鳴をあげる。誰もが血の流れる悲惨な光景を想像していた。しかし、
「いたっ!!」
九兵衛は床に降りたつと、顔を押さえた。
「何だ、これ…。ビービー弾じゃないか。」
床に落ちているカラフルな粒を見て言った。
「ビービー弾…。それ、そんな名前なんすか。」
楓は銃口を九兵衛に向けたまま、左手で木刀を受け取った。
「これは長谷川さんのとこの景品ですよ。実弾じゃなくてガッカリしました。使い道なさそうで。」
「いや、景品で本物の銃渡せないでしょ!長谷川さん捕まっちゃいますよ!!」
「それもそうアルな。」
新八のツッコミに神楽が頷く。
「まあ、それはおいといて…。まだやる気ですか。」
九兵衛は再び刀を構え直していた。
「せっかくここにお借りした木刀があるので、正真正銘の決着を着けましょうか。」
そう言って楓は木刀の柄を握った右手に左手を添えるように乗せ、床と平行になるように鳩尾の高さで構えた。特に肩に力を入れることもなく、悠然と立っている。
「銀時。何だ、あの娘の構えは。」
桂が銀時の隣で問う。
「ありゃあ…戦時中の奴の構えと同じだ。我流だが型はしっかりしてる。」

「いくぞ!」
九兵衛は思い切り刀を振りおろす。それに対し、楓は左手でポーンと刀を払うと、ステップを踏んで、右手の木刀を九兵衛に叩き込んだ。
「うっ…!!」
更に、楓は柄の先で九兵衛の顎を下から上へと突き、背後に回ると項を木刀で力一杯叩いた。
「ケホッケホッ…。」
喉を押さえて、苦しそうに九兵衛は咳き込む。

「木刀じゃなければ、確実に首が飛んでましたね。」
九兵衛の目の前で楓は再び構えた。
「僕が…負けるかっ!!」
刀を手に九兵衛は飛びかかる。カァンと音がして、楓は木刀で九兵衛の刀を受け止めた。
「私のこと殺す気でいますか。」
「当然だ!!」
「そうですか。私はあなたに恨みがある訳じゃないんですがね。…私も本気でいきますよ。」
その途端、楓の目付きが変わった。それはまるで獲物を狩ることを許された獣のように。
「…っ!!」

カァンカァンと力で圧倒する楓の攻撃を受け止めるのに精一杯で、九兵衛は一つも反撃できずに後ろへと下がっていく。そして、壁に背がついた。完璧に形勢逆転だと思った。
「くそっ!!」
九兵衛は焦る。楓は木刀を振り上げた。九兵衛は瞬時に、振り下ろされた木刀を避けた。ドガッと音がして、パラパラとコンクリートの壁が崩れた。
「…なんて力だ!!」
九兵衛は振り返っていった。楓は一つ舌打ちをすると、木刀をコンクリートから抜き、一振りした。
「いつものアイツらしくねぇ。いや、でも確実に戻りかけてんな。」
銀時はそう呟いた。


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