nitty-gritty

□憂鬱
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「ちょっとすまない。」
再び、賑わいのある屋台が立ち並ぶ通りに出た。待っていたかのように、現れたのは左目に眼帯をした、お妙と同じくらいの年頃の少女である。

「何か。」
「君に用があるんだ。」



同じ頃。土手で銀時らと合流したお妙はあまりにも帰ってこない楓を捜してくることを引き受けた。
「あら。」
銀時らと別れ、暫く人波を歩くと親友の柳生九兵衛と楓が話しているのが見えた。
「なんだ、もう知り合ってたのね。」
楓に九兵衛を紹介しようとしていたお妙は安心したような顔になった。騒音の中、彼女には二人の会話は聞こえなかったが、次の瞬間、衝撃的な場面を目にした。いつの間にか楓の背後にいたさっちゃんが楓の鳩尾を拳で殴った。楓は呆気なく、その場に崩れそうになるが、さっちゃんの脇に抱えられると、九兵衛と共に先の人波に流れていく。

「大変!あの二人、きっと勘違いしてるんだわ!」
お妙は人波を掻き分けて二人を見失わないように追った。やがて、人波から外れると、廃れた大きな倉庫に入っていった。
「あんなところに…。早く、銀さんたちに伝えなきゃ!」
中を覗き込むと、埃っぽい室内の中央で、楓が九兵衛に後ろで手を縛られていた。

「姉御〜!!」
その時だ。神楽の声を聞いて振り返ると、銀時らがいた。
「ちょうどよかったわ、銀さん!楓ちゃんが…!!」
「どうした。」
お妙は今までの経緯と、自分の推測を話した。
「勘違いですか!?まあ、あの二人のことですから、有り得るかも知れませんね。」
「何だ、銀時。事件か?」
「うわぁぁ!!」
新八が驚くのも無理はない。いつの間にか、銀時らの背後に、エリザベスを連れた桂小太郎がいた。
「お前なぁ…。」
銀時は飽きれ顔で口を開いたが、その時だった。

「何だ、うるさいぞ!貴様ら!…って、妙ちゃん!!それに銀時たちまで…。」
倉庫の扉を開き、怒鳴ったのは九兵衛だった。しかし、彼女は驚きを隠せない。
「九兵衛、楓を返してくんねえか。」
「…無理だな。入ってくれ。」
一同が倉庫に入ると、九兵衛は扉を完全に閉め、中央に歩いていく。

「バレていたみたいだ。」
「そう。…でも、この女を消してしまえばまた元に戻るはずだわ。」
九兵衛の言葉にさっちゃんがいつになく冷静に答える。九兵衛は刀を鞘から抜き、目の前に気を失って座っている楓に向けた。

「九ちゃん!!これはどうゆうことなの!!」
お妙の問いに答えたのはさっちゃんだった。
「最近、銀さんの回りを付きまとってる、この女が憎いのよ!!銀さんの隣はあたしのもの!何よ!今更入ってきて銀さんの隣にいるなんて!」
「何で、妙ちゃんと仲良く話しているんだ!妙ちゃんは僕のものだ!」
お妙はため息をつき、万事屋は飽きれ顔だった。

「なんだ。そんな理由なんすか。」
今まで気絶していたかと思われた楓がムクリと顔を上げた。
「私に対して過去に何か怨みでも持たれたのかと思ったんですが。理由が平和だなぁって感じですね。」
「貴様…!!僕らは本気なんだぞ!」
九兵衛は刀を楓の首筋に当てた。
「こんなことして、何の意味があるって言うんです。柳生九兵衛さん、猿飛あやめさん。」
「なっ…!!」
首筋に当てられた刀が震えた。それは名前を呼ばれたことに対する驚愕反応か。
「申し訳ないですが、職業柄、あなた方のことはお会いする前から知っていました。細かいところまで正確にね。猿飛さん、あなたと似たような者ですよ。」
「そんなこと関係ない!!僕は、ただ…!!」
さっちゃんの返事を待たずに、九兵衛は刀を振りかざした。
「さすがに堅く縛ってありますねぇ。しょうがないな。」
楓の呑気な言葉の後にゴキッゴキッと音がした。
「終わりだ!!」
九兵衛は刀を振り下ろす。お妙は顔を両手で覆った。

キィンと金属のぶつかり合う音が辺りに反響した。忌々しい物に今日だけで2回も助けられていることに複雑な思いだった。
「それ…!!」
「御庭番衆ならご存知ですよね。」
冷たい鋼鉄製のリストバンドは無駄に強い。九兵衛の刀にヒビが入り、刃こぼれした。

「ホントはこれ、こんな使い方しちゃ駄目なんですよ。壊してほしいから…なんてね。…しかし、似ている仕事と言ってもカブッたことはなかったんで、何の怨みだろうかと思えば、坂田さんですか。そう言われればそうかも知れませんね。」
ゴキッゴキッと再び、関節を元に戻しながら楓は言った。

「なっ…何だ!貴様っ!!」
九兵衛は一歩下がると、欠けた刀を構え直した。
「こうなったら…!!僕と勝負しろ!!」
九兵衛は帯にさしていた、もう一本の刀を楓に投げて寄越した。
「やれやれ…。刀なんて…使ったことあるんですかね、私。ねえ坂田さん。」
溜め息と共に楓は刀を手に立ち上がる。
「バリバリあるぜ。戦時中はお前は刀しか使ってなかった。」
「そうですか。…感覚だけでも覚えてりゃいいんですがねぇ。」
そう言いながらもスルリと鞘から刀を抜く。
「銀時。この女…どうゆうことだ?」
怪訝そうな顔をして九兵衛が問う。
「こいつ、戦時中の記憶がスッポリ抜けてんだ。」
「そうか…。それなら君がいくら戦時中の腕のたつ剣客だったとしても、その記憶がないなら、僕の方が圧倒的に有利だな。」
確信したように九兵衛はニヤリと笑った。


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