nitty-gritty

□退屈
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寝覚めが悪い、と思えばそれまでだ。さっきから、寝返りばかりを繰り返している。
幸いにも、頭痛と吐き気は一夜にして治まったが、倦怠感だけが残った。今までぼんやりとしていた脳内や視界は鮮明なのに、体が怠くて全く動かない。究極に退屈すぎる。
過去は全て忘れた。昨日の記憶は神威に額を掴まれ、宙から落とされた後、酷い頭痛に見舞われた…そこで途切れている。辛うじて、薬を飲んだことくらいなら覚えている。それは記憶を消すためであるが、その肝心の記憶は全くない。

「楓、起きたか。」
「とっくだよ。」
寝癖のついた頭で新井がいつもの服装で研究室に入ってくる。だが、それよりもサングラスが目にはいる。外すときはないのかとつくづく思った。
「1回ぐらいサングラス外してくれてもいいんじゃないの。」
「…だめだめ。俺、これないと生きてけないから。それよりさ…。」
楓の問いに、新井は少しの間を置いて答えたが、話題を逸らした。だから、楓もあえて詮索しなかった。何か、特別な理由があるのかもしれない。
「総督が呼んでた。」
「分かった。行ってくる。」
まだ怠い体を起こして、ヨロヨロと暫く部屋の中を歩き回った。体の動きを確認していた。そして、その流れのまま立ち止まることなく研究室を後にした。



「アイツ、気づいてんのかな…。」
研究室に一人きりになった新井は、ボスン、とソファーに座り込む。
「まさか盗み聞きなんて、面白いことしてくれますね、坂田さん。」
独り言ではない。確実に隣の部屋からの気配を感じていた。
「まだ、二人は寝てるんですよね。…もう、分かってますよ。こちらで話しませんか。」
「悪りいな、新井。」
キィ、と音をたてて、隣の部屋の扉が開く。そこから銀時が姿を見せた。

「昨日の総督との会話も聞いてましたね。」
「それも分かってたのか。」
新井は帰り際、佐々木の顔から1度、彼の背後の窓に目を移した。その窓は廊下側に位置しており、確実に人の気配と影が見えた。
「楓と僕の関係も知ったでしょう。」
「いや…それを聞かずとも、俺には薄々分かってた。親子だって。お互い気づいてないんだろうが、似てんだよ。テメーら。」
「…それは心外ですね。」
「楓が気づくのも時間の問題だろうな。」
銀時は歩み寄ってきて、新井の向かいに座った。

「俺と白夜。白夜だけなら分かるが、何で俺なんだ?」
「僕にもさっぱり分からないんです。」
情報の少なさに二人は沈黙した。だが、先に口を開いたのは新井だった。

「ああ、そうだ。話は変わりますけど…今日、多分、楓、休暇日になると思うんですよ。あんな調子じゃ、危ないし総督は任務を出さないはずなんです。だからといって、ここにいるのも退屈だろうし…。」
「預かれってか。」
「まあ…そうゆうこと…ですね。」
「いいけどさ、どうすればいいんだよ。」
「…何か楽しませてやって下さいよ。」
「何かって…無責任すぎだろ!!…分かったよ、要はリフレッシュ休暇だろ?」
「宜しくお願いします。」
文句を言いつも、実のところ、銀時は楓にさせてやりたいことが沢山あった。多分、神楽が新八も同じことを思っているはずだ。

「じゃあ、楓が帰ってきたら連れてくからな。寂しいとか言うなよ!」
「言いませんよ。僕をどんな親バカだと捉えてるんですか。」
「卒業式とか成人式で娘の成長に感動して泣いちゃうパパかなと…。」
「少なくとも、僕はそんな人間じゃないです。」
新井は、げんなりした顔をしていたが、内心間違ってないなと思っていた。



佐々木の頭が噴火した。彼の背後にあるコーヒーメーカーが湯気を出したのだ。
楓が総督室に赴くと、すでに佐々木は一杯目のコーヒーを啜りながら暇をもて余しているようだった。楓の姿を見るなり、自分の正面のソファーを示した。楓が座るのを見計らって話し出す。
「まあ、その顔を見れば大体分かります。…調子はどうですか。」
「まだ、右手が少し…。」
右手が軽く麻痺したように動かない。これも、薬のせいだと思った。
「まあ、もともと今日明日は休暇を差し上げるつもりでしたので…。ちょうどいいです。体調を万全に調えておいてください。」
「ありがとうございます。」
とは言っても、特にすることはなかったため、部屋で溜まった本でも読み漁ろうと思った。

この機に佐々木に聞きたいこと、なんて多すぎて逆に聞く気にもならなかったが、もし質問したとしても「まだ教えられませんね。」の一点張りだろうと思った。

仕方ないから、「これで失礼します。」と言って部屋を出ようとソファーから立ち上がったが、その時に佐々木に妙なことを問われた。
「秋本さん。自分の本当の親って、考えたことあります?」
「…。」
高杉ではない誰か。だが、それは誰なのかは皆目検討もつかなかった。
「ありますけど…分からなくてやめます、いつも。」
「そうですか。」
「それが何か。」
「いえ。」
何か隠しているのだろうが、今知る必要はないと思った。
「失礼します。」

総督室を出た瞬間、目にも止まらぬ早さで腕を引かれた。
「行くアルよ!!」
あまりの展開についていくのも、理解するのもやっとだった。


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