nitty-gritty

□風凪
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『風凪』の書き出し――
(1日の仕事を終えた少女は自室のベッドで横になり、深い眠りについた。)

薄暗い部屋に、ガラケーのボタンの音が響く。いつも通りにログインし、『nitty-gritty』の番外編を書き始めた、とある学生。
そいつこそ、筆者の私である。



1日の仕事を終えた楓は自室のベッドで横になり、深い眠りについた。
久しぶりに見た夢はとても奇妙であった。


見慣れない部屋に立っていた。ただ、それが自室でないことは明らかだった。
目の前のベッドに座って、ガラケーに夢中になっている、この人物のものかと思った。
だが、申し訳ないと謝るにしたって、自分でもどうやって来たのか分からない。だから、何かこの人物が何か知っているんじゃないかと思った。

「勿論。」
と目の前の人物は答えた。
楓は驚きを隠せなかった。依然としてガラケーからその人物は目を離さない。
(だから、ポーチから拳銃を出して、構えた。そして、撃ち放った。)
楓はポーチから拳銃を出して、構えた。そして、撃ち放った。
(だが、弾は出ることはなく、銃口からは…。)
ポンッと音をたてて、薔薇の花が咲いた。

「…。」
心底驚いているようで、今までにない顔だった。
「これは失礼。秋本楓さん、E−85。私は、エマ。あなたの世界を作った人間。」
すると、鋭い目付きが返ってきた。
私は顔をあげて見せた。完璧…とまではいかないが、自分で描いた絵は自分の顔に少し似る、と聞いたことがある。
勿論、私は拙いながらも楓のイメージ画を描いて、upした。
それがそのまま、本当の人間になって、目の前にいる。

「似てる、と思った?」
「少し。」
「そう。」
小説と言うものは、筆者の知識の範囲内で描かれる。だから、価値観とかも筆者のままなんじゃないか…それが私の考えであるが、いささか間違いではなさそうだ。
まさに、生き写しだと思った。まるで、姉妹みたいに。

「今は平成。江戸が終わってから200年とちょっと。」
「そんなに経てば、景色も変わるもんやね。」
「江戸もかなり発達してると思うけどね。」
「そうかね。」
暫くの沈黙。話が上手くないのも、適当な関西弁混じりの話し方も似てる。

思っていたより早く、私に心を許してくれたようだった。だから、聞いてきたのか。
「私って、何者なん。」
「教えたってもいいけど、まだ駄目やね。」
「何で。」
「もうちょい、ウチの書く話に付き合ってもらいたい。それだけ。」
目の前にいる、この女が書く話で自分は主人公…。にわかには信じがたいはずだ。
「ウチはあんたに対して、なんでも出来る。過去を教えることも、そのリストバンドを外すことも、佐々木を消すことも。」
「まだ、我慢しろ言うん。」
「必ず幸せにしたる。これは…銀さんが言うよりめっさ確実やで。」
「分かった。それまで生きてればええんやろ。」
「殺させはせん。」



ただ、私が彼女をこちらに呼び寄せたのも、特に理由はない。もしかしたら私は寂しかったのかもしれない。

(二人は海辺に飛んだ。小説に打ち込んでしまえば、なんだって可能だ。)

「今まで、幸せだったことは一度もあらへん。」
「心配すな。ウチが絶対幸せにしたる。」
「けどなぁ、一回だけ…ほんの一瞬でええ。幸せって…どんなの。」
「…。」
言いたいことは分かる。そうだ。目の前のこいつだって、人間であることに間違いはない。
完璧に心をなくす人間なぞ、いるはずないのだ。

私は隣にいる楓の顔を見た。波の音も、吹きつける風も、夕陽を受けて透き通った赤眼や茶色く見える長い髪も、全て可愛らしく思えた。
「あんたを苦しめとったんは佐々木やない。紛れもなく、ウチやから…。」
1話ぐらい、任務のない話もいいかもしれん。

「もっと、強くなりたい。」
「あんたは充分強いで。」
「全然強うない…。」
私は結局何もかもに甘い。きっと、楓も。
「そんな、慌てることなか。ゆっくりでええねん。」
いつか、きっと真実を私が小説に書く時。楓が全てを思い出す時。どんな風に思うんだろう。初めから…秋本楓として目覚めた時から、そのつもりで、あいつはいたのかもなんて。それならそれで別にいいや。今ならまだやり直せる。

あいつは実在しない。だけど、私はあいつのこと何もかも知ってる。架空の人間といえど、人間が作ったなら、心はある。

「また、会いたいな。」
私にしか見えない。周りからすればただの妄想。
だけど、銀魂の一人のヒロインとして、ここにいる。

海の波が、風が、静かに治まった。風凪が訪れた。私の隣には、もう誰もいない。
また、きっとあいつは風凪と共に現れては消える。私が作ったヒロインは、私と似て、そんなやつだ。

不幸にしたかった訳じゃない。何の経験もなくものを言うような中身のない人間になってほしくなかっただけ。だけど、そんなこという私もまだまだ未熟みたいだ。

あいつが仮じゃなくて、本当の幸せを感じた時。どちらがより人間らしく、大人に近いのだろうか。
いつか、きっと。佐々木から解放してやりたい。何故、あいつをスパイなんかにしたのか。自分では自分のこと分からないなんて言ったら、おかしいけど、きっとそうなんだ。だけど、何かを誰かに伝えるために楓と言う、ある意味分身のような存在を描き出したのか。
あいつは私のこと恨んでいるだろうかと思った。怖かった。だから、約束した。

絶対に幸せにしたる。

■■■

正直いえば、私も何を書こうとしたのか分かりません。
だだ、フワッと「トリップしたら、楓はどんなやつだろう」なんて考えた結果ですね。
筆者と、その主人公。主人公の運命は筆者にかかっているわけですが、恐らく主人公自身にもそれなりの考えや思いがあるんじゃないかな、なんて思いました。だけど、筆者はその主人公に勝手な台詞を言わせたり行動をさせてしまって、架空ではあるものの、何もしゃべらないというか、しゃべれない主人公は本気で何を思ってるんだろう…。理屈っぽいですが、そんな理由なんですよね。


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