nitty-gritty

□冷雨
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「濡れないようにな。」
「気をつけます。」
どうゆうわけか佐々木に呼ばれ、何かと行ってみればろくでもない仕事だった。昼頃に楓は銀時らを迎えにいったが、実はそんなに人手も要らないし雨だしなんて理由で、新八と神楽はお留守番ということになった。倉庫の片付けぐらい自分の所の隊士を使えばいいじゃねえかと銀時が愚痴を溢せば、佐々木はパンパンに膨れ上がった茶色い封筒を銀時に渡した。すると、銀時はすぐに上機嫌になった。そんな光景を目の前で見ていた楓は、なんて単純な男なんだろうと呆れた顔をした。
その後屯所を出てから、ファミレスに行くまではよかったが、朝の天気予報の通りに店を出る頃には雨が降り始めていた。
「濡れないようにな。」
「気をつけます。」
幸い、二人とも傘は持ち歩いていたため、相合い傘は免れた。

屯所までの帰り道。雨のせいか交通量の少ない坂道を歩いた。
「今日は、どうもありがとうございました。あなたの言う通りだとは思いますがね。」
前を歩くのは楓。いつものように、無表情で言った。
「いや、こんなに報酬もらえたからいいだろ。俺ら常に金欠だからな。」
「そうですね。佐々木もそれを狙ったのかもしれません。あの人にしては珍しい。」
振り向いた楓の冷やかな目が傘から覗く。
「…。」
もしかしたらそうかもしれない。今回の報酬は楓がいたからこそ回ってきた仕事の褒美だ。佐々木が最初から銀時が金に困っていて、尚且つ、ねだると分かっていたなら、策略家である佐々木の計画通りと言うことになる。見廻組から金をもらって生活をする?銀時を憐れむ佐々木の顔が脳裏に浮かんだ。銀時は言葉に詰まる。

「神楽、夜兎ってこともあって結構大食いですし。…彼女、満足してますか。」
「……。」
「こないだ、新八、げっそりして見えましたけど…。彼、家じゃ可哀想な卵しか出ないと聞きますし。食べ物のあては万事屋しかないんですよ。」
「……。」
「聞いてますか、坂田さん。」
「聞いてるよ…!!」
銀時は少しムッとした顔を向けた。そのまま立ち止まる。それを見て楓も足を止めて振り返った。
「怒らないでくださいよ。私は当然のことを言ったまでです。パチンコだ何だといって、お金を無駄遣いするのはもう止めにしませんか。」
「てめーに言われなくたって…。」
「あなたじゃなく、二人が我慢して万事屋が成り立っている部分もあると思うんです。」
それもそうかもしれないなと、ふと納得してしまった。あの二人はいつも自分には優しく、何気なく接してくれている。大人の自分が子供の二人に頼ってしまうなんて、情けない話ではないか。本当は口や表情に出さないだけで、胸の内で呆れているのかもしれない。自分のことしか考えてなかったんだ。

考え込んでいた銀時が顔をあげると、いつの間にか楓は遥か先にいた。傘を肩にかけて道端にしゃがみこんでいた。長い黒装束の裾が濡れている。
「おい、どうした楓…。」
まさか、また雨に濡れたのかと心配して駆け寄ったが、対象が違った。
「アォーン…。」
鳴き声の主である真っ黒な子犬が段ボールに入れて捨られていた。楓は雨でビショビショに濡れたその子犬を撫でていた。
「…。」
銀時は傘の隙間から楓の表情を伺った。無表情なのは変わらないが、雰囲気がいつもと違って見える。
「楓…?」
彼女は子犬を撫でるのを止めると、ポーチからタオルを取り出すと、子犬をくるんだ。そのまま立ち上がり、抱き抱えて歩きだす。
「待てよ。」
「犬を拾っただけですよ。」
「そうじゃなくて…。」
隣に追いついた銀時を見た二つの視線。
「ワンッ!」
タオルから勢いよく顔を覗かせた子犬、そして楓のもの。
「まさか、拾うとは思わなくて…。置いてくのかなって…。」
いつもの楓なら、多分あり得ないことだった。見て素通りかと思っていた。

「なんてことありません。気分、です。私だってそうゆうことはありますよ。そんなに冷酷な人間に見えますか。」
「いや…。」
そんなことを言ったが、彼女の本心は違った。それはただ単に表面を繕うための理由に過ぎない。

(雨に濡れる黒なんて、私みたいじゃないですか)
敢えて口にはしなかった。銀時に分かるわけない、分かってたまるかと思った。全ては自分の姿に重なったから。

次第に雨は強くなる。二つの背中は雨の中へと消えていった。

■■■

原題は「雨の日の坂の途中」。前にアップしていたんですが、書き直して再び登場となりました。
なんといっても、書きたかったのは夢主の後ろめたさ。銀さんがどこまでお金に汚いかは分からないので、そこらへんは捏造です。


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