新章 螢の光

□帰還
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 ケイラを亡くしてから、この時期はいつも同じような夢を見る。

「はあ……」

 胸に溜まっていた息を吐き出して、サトラは持っていたペンを置いた。
 仕事の書類に目を通して、署名しなければならないのだが、どうもやる気が出ない。体が重い。
 顔にかかった金色の長い髪を背中に流す。椅子に深く体を預け、肩に巻いていたストールを巻き上げた。
 執務室はストーブを焚き、膝には厚手の膝掛けをかけているのに、寒気が止まらない。
 原因はわかっている。
 寒い日が続いていた事と、連日の寝不足で体調を崩してしまったのだ。完全に、自己管理が出来なかった自分のせいである。
 今朝方、悪夢を見た。
 一回ではない。毎日のように、目を瞑っただけでも彼が死ぬ光景が蘇って、慌てて起きるのだ。
 体調を崩している事を子どもたちに知られたら、確実に心配する。長男のカイラに至っては、仕事を全部引き受けて、職務停止命令を出しそうだ。あの子にも自分の仕事があるのだから、それだけは避けたい。
 あと少ししたら、カイラが書類を取りに来る時間だ。
 ぼんやりと宙を見つめながら、仕事が進まなかった言い訳を考える。
 母親として、国の上に立つ者としてそれはどうなのかと突っ込まれそうだが、今回は見逃して欲しい。
 つらつらと言い訳を考えていると、扉をノックする音が耳に届いた。続いて、女王付きの使用人であるユズカの声が入る。
 ユズカは、クウラの同級生でもあり幼なじみでもあるサクラの母親だ。自分よりも一つ年上で、相談したりされたりと持ちつ持たれつの関係である。
 入室を許可すると、緑色の着流しの上に白いエプロンを着たユズカが、神妙な面持ちで入室した。
 疲れた表情を浮かべ、旋毛の辺りで一つに縛っている髪もやや乱れている。
 時間を確認すると、もう日が沈む時刻で、彼女の勤務終了時間でもあった。
 帰る準備をしていたのに、何かあって慌てて職務に戻ったのだろうとサトラは察した。

「何があった?」

「先ほど、力魔島(リキマジマ)のヨシアキ国王から連絡がありまして。明日のケイラ様の命日に合わせて、今夜こちらを訪問すると……」

 それを聞いて、サトラは額を覆い隠し、盛大なため息を吐いた。

「なんてことだ……!」

 素直な気持ち。あの男は嫌いだ。

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