新章 螢の光

□予兆
1ページ/2ページ



「もうすぐ、父様の命日だね……」

 時は1月。真冬の海風が身にしみる季節。
 海に囲まれたこの小さな島国は、大陸や北方にある国と比べると比較的暖かいらしい。が、通年住んでる身としては暖かいとは感じられず、寒いものは寒い。
 早朝の海風に当たりながら、王宮の隣にある小高い丘の校舎を目指して、二人の生徒が並んで歩く。
 片や。真っ直ぐな赤茶色の髪を肩ほどまで伸ばし、太陽と同じ色の瞳を持った少年。着ている服は、薄い生地で出来た袖口の細い黒色の学生服で、左胸に校章の桔梗が刺繍されている。制服だけでは寒いので、首に厚手のマフラーを巻き、制服と同色のコートを纏っていた。
 片や。オレンジ色の髪を二つに分け、耳の下で縛り、空色の瞳を持った少女。袂の無い小袖の上に、袖のない水色の着流しの制服を着ている。左胸には少年と同じく桔梗の刺繍がされていた。細い腰帯の色は明るい黄色だ。寒いのか少年と同じようにマフラーを巻き、厚手のローブを羽織っていた。身長は、少女の方が額一つ分ほど高い。
 風から顔を守るようにマフラーを上げ、少年は「そうだね」と静かに返した。

「クウラは、お墓参り行くの?」

「そう言うアスラ姉さんは行かないの?」

 問いに問いで返す。
 アスラと呼ばれた少年の姉は「うーん」と考え込んだ。

「迷い中……かな」

 ぶっちゃけると、正直面倒。
 そもそも、お盆やお彼岸にも墓参りをしているのに、また墓参りかよというのが、アスラがいつも考えている事だった。
 父の墓は森の奥にある開けた場所にある。
 そこまで行くのに歩いて15分ほど。
 面倒な場所に建ててくれたなと、行くたびに思う。

「でも、行かなきゃカイラ兄様に怒られるよねー」

「どうかな?留学してた時はお盆の時しか来なかったし、許してくれそーじゃね?」

 カイラは自分たちの一番上の兄だ。
 普段は穏やかでとても優しいのだが、怒らせると荒れに荒れる。名前を漢字にすると海が入るのだが、どうやらその通りの性格に育ったようだ。
 優しい兄と怒った兄を比べて、姉弟は嘆息する。
 そんな会話をしながらも足は動かしていたので、城から続く道から丘に登る坂道へと入った。
 商店街から伸びる道と合流するこの坂から、通学する生徒たちの数が一気に増える。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ