小説(オリジナル・版権)

□花火のあがらない灰と白の雨の下で。
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「おい、何が食べられるんだ。」
「食えねーな、食えねーよ」

花火のあがらない灰と白の雨の下で、

気が重かった梅雨は先週には終わりを告げ、とうとう夏が到来していた。
外は蒸し暑く、少しでも歩くと汗が滲む。しかし、その中を人々は笑いながら歩き、走り、熱された道路のアスファルトの陽炎を揺らしていた。
「……はぁ」
桃城は外から聞こえる足音、そして壁のカレンダーの印にため息をついた。
「本当だったら、俺もあの中にいる筈なんだけどなー」
「しょうがねえだろ、熱出てんだから」
スーパーの袋を片手に入ってきたのは、先程買い物に出て行った亜久津だった。
「だってな、」
梅雨の間にした約束が今日だったのだ。どうしても諦めたくなく、隠していたのだがすぐにバレてしまい、この通りベッドの住人にされてしまったのだ。

「色々買ってきたから、選べよ」
広げられた袋には色々な果物が入っていた。いつもなら喜び、目を輝かせるところだ。
が、全く食欲は湧かない。
「食えねーな、食えねーよ」
「食べろ。栄養摂らないと治らねえ。ただでさえ、夏風邪は拗らせると厄介だ。一口でもいいんだ食べろ。」
「じゃあ、桃で」
あ、突然、俺の勘が告げる。今のうちに我侭言っておくべきだ。と、
「ああ、わかった。剥いてくるから待っ「ここで剥いて」
「……わかった。用意するから待ってろ」
「へーい」

去っていく後姿に我侭が通じたことから、笑いが込み上げてきた。布団を被り小刻みに笑った。
「へへへっ」
「何、笑ってんだよ」
「いーや」
戻ってきた亜久津はベッドの傍にある椅子に腰をかけ、膝に乗せたボールの上で器用に桃を剥いていく。
甘い匂いが桃城の鼻をくすぐる。
「甘い、な。」
これなら、食べれそうだ。
「鼻風邪じゃなくてよかったな」
剥き終わった一切れをフォークでさして、渡してくれた。受け取り、すぐに口に放り込む。
甘さが口の中に広がった。
「全くだね。にしても、器用だな。」
「このぐらいは、普通だろ、」
この間の授業の家庭科実習を思い出す。………あー。
「女泣かせー。あ、甘い」
もう一切れを口に突っ込まれた。
「何言ってんだ。まあいい、食べれそうだな。」
「あぁ、」
その後、剥いてくれた桃を一個分食べ、満腹になり襲ってきた眠気の中、ベッドで横になった。
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