テニプリ
□真冬の温もり
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「…で」
『ん?』
暖房のついた部屋で、電気のついたこたつで、温かい湯のみに手をやり、向かい合わせに座りながら、俺は口を開く。
「今日はどうしたんですか」
たまご先輩はすっかりリラックスモードである。
『今日?あぁ…』
「用事があって来たって言ってましたよね」
『おん』
「何の用ですか」
『ん〜…泊まりに来た』
「…、は?」
一瞬、思考が停止した。
泊まりに来た?
なぜだ?
『明日部活オフやし、何より日吉くん今日家に一人やろ?こんなチャンス滅多にないって思ってな』
チャンスってなんだ。
いやそれより気になる点がある。
「なぜ…今日は家に俺一人だと知って…」
たまご先輩に話せば、何が何でも来ると思って言わなかったのに。
…現に、今来てしまっているが。
『あぁ、鳳くんが教えてくれたんよ』
「鳳…」
今度宍戸先輩をホラーネタで脅してやる…!
「来てしまったものは仕方ないとして、泊まりは無理です。帰ってください」
『無理や帰られへん』
「帰ってください」
『帰られへん〜』
駄々をこね始めるたまご先輩に、俺はまた軽くため息をついた。
こうなったらこの先輩は、聞かないんだ。
***
『日吉くん!お風呂いただきましたぁ〜!』
あの後一緒に夕飯を作り、お風呂に入り、たまご先輩は割と邪魔にならずにいた。
夕飯を作る時なんかは笑える話もして、意外と楽しめた。
「(…たまにはこういうのも悪くはないな)」
そう思いつつ、たまご先輩の声のする方に目をやる。
「…、」
思わず言葉に詰まった。
『日吉くんの家のシャンプーめっちゃえぇ感じやわぁ』
着替えを持って来ていなかったたまご先輩に、寝間着として貸した俺のTシャツ。
そんなTシャツはたまご先輩が着ると随分と大きく見える。
お風呂上がりで少し赤い頬に、水気のせいで首に張り付く髪。
…少しドキッとした。
『今私の髪日吉くんと同じにおいしてんねんでな?あかん、めっちゃ興奮する』
「黙ってください閉め出しますよ」
閉め出しだけは勘弁!と、たまご先輩は素直に大人しくなった。
『あ!日吉くん、まだ髪濡れてるやん』
「まぁそのうち乾かしますよ」
『待ってて!乾かしたるから!』
「いや遠慮しま…」
『ドライヤー持って来るわな!』
俺の言葉には耳を傾けず、たまご先輩は洗面所へと去って行った。
そしてしばらくすると、ドライヤーを持って現れる。
『はい、今から乾かしたるからな〜大人しくしといてな!』
「いいです、自分でやるんで置いといてください」
『熱かったら言うてな〜』
「………はい」
何を言っても無駄だということを、改めて思い知った。
俺の髪を乾かすたまご先輩の指がたまに耳に触れる度、俺の耳の熱が増していくのがわかった。