テニプリ
□不器用な俺でも恋はする
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『いぶぶ〜、いいにおい』
「…」
『お持ち帰りして抱き枕にして寝たい』
「…」
『いぶぶ可愛いよ』
「…」
『ねぇいぶぶ〜』
先ほどから一人で騒いでいるこいつ。
俺は小言を言ってもこいつには通じないことを学んで、だんまりを決め込んでいた。
あーあ、もう部活始まってるよな。
最悪…橘さんに何て言おうかな…
脳内で橘さんへの言い訳を考えていると、こいつが静かに口を開いた。
『いぶぶはさ、優しいよね』
俺は耳を疑った。
「…俺が?」
『うん!』
やっと俺が口を開いたのがそんなに嬉しいのか、満面の笑みで笑うこいつ。
『もう部活の時間でしょ?なのにこうやって付き合ってくれてる』
「そんなの、あんたが邪魔で動けないからに決まってるだろ」
『いぶぶくらい力あれば、振り解けるでしょ?これくらい』
たしかにこいつの腕には力が入れられているようには見えない。
本当に壁に手をついているだけ…に見える。
「別に…」
そうだ、振り解けるのに…
なんで俺はこんなやつの遊びに付き合ってたんだろう。
「じゃ、俺行くから」
退けたこいつの腕に自分の手が触れた時、自分の身体が熱くなるのを感じる。
『…』
視界の隅に、こいつが俺の背を見つめる姿が映った。