テニプリ
□素直になれなくて
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『裕太くん!』
「たまごさん!?」
不二家の玄関を潜り抜け、勝手口を開けて顔を覗かせる。
すると、裕太くんが皿洗いをしていた。
『あっ…ごめん、取り込み中だったかな?』
「いや、ちょうど今終わったとこなんです」
そう言って裕太くんは最後の一枚かと思われる皿を洗い、乾燥機に入れた。
そして手を拭きながらこちらにやってくる。
『ならよかった!はい、今日はクッキー作ってきたんだよ』
「うわ、いいんですか!?いつもありがとうございます!」
焼きたてのクッキーが入った袋を渡すと、裕太くんは顔を輝かせた。
嬉しそうな裕太くんを見ていると、私も頬が緩む。
「俺、たまごさんの作ったクッキーしか食えないんです」
『え、ほんと?』
「はい!」
『改めて言われると、嬉しいような恥ずかしいような…』
目を逸らしながら言うと
「たまごが頬を染めるところを見れるなんて…今日はなんて幸せな日なんだろうね」
聞き覚えのある男の声がした。
『げっ…不二くん…』
「やぁ」
いつの間に現れたのか、私の少し後ろに不二くんが立っていた。
振り返った私が顔をひきつらせて言うと、笑顔で私の隣までやってきて肩を抱いてくる。
「今日も僕に会いに来てくれたのかい?」
『違うけど』
気持ち悪いことを笑顔で言う不二くんに思わず真顔で答えた。
私は休日、裕太くんが不二家に帰っている時を見計らっては裕太くんに手作りのお菓子をプレゼントしによく来る。
そしていつも不二くんはタイミング良く私の前に現れる。
不二くんと私のやりとりを見て裕太くんは溜め息をついていた。
「じゃあどうして?」
『裕太くんに会いたかったから来ただけ!』
肩に乗せられている不二くんの手を軽くはたき、裕太くんの元へと軽く走る。
『裕太くん、散歩しに外行こ?』
「あ、は、はい…」
「じゃあ僕も『いやだよ変態がうつる』」
言いながら私は裕太くんの手をとり、不二くんの隣をすり抜ける。
その際に不二くんは小さく私に囁いた。
「愛してるよ、たまご」
…あ、鳥肌。
自分の腕を見てそう思いながらも、私は赤くなる顔を隠しきれなかった。
だから私はいつもみたいに意地を張る。
『私は愛してませんからっ!』
そう言って扉を思い切り閉めてやった。
「僕も嫌われたものだね…」
不二くんが扉を見てそう呟いていたなんて知らずに。