テニプリ
□君に言えなかったことがある
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医薬系の大学に6年間通った俺は、無事に就職活動を終え、就職先も決まった。
来年から社会人や。
そんな俺の近況を聞いた跡部が、中学時代のテニス部レギュラーメンバーで今日は大阪での花火大会に参加しようと案を出してくれた。
6年も大学に通った俺に対して、他のメンバーはもう社会人や。
何年も話してない奴もおるから、ちょっと楽しみや。
"ドアが開きます、ご注意ください…"
電車を降り、空を見上げる。
暗い紫色の空に、橙色の夕日が幻想的やな。
そんなことを思いながら待ち合わせ場所に足を進めた。
待ち合わせ場所に着く頃には、夕日は沈んどった。
大阪やということもあって、あいつがおらんかと淡い期待を抱いてまう俺に笑えてくる。
俺が、大阪を離れたくせに。
俺が、会うのを拒み続けたくせに。
あいつがまだ学生なんか、もう社会人なんか、それさえ分からん。
謙也と電話する回数も減ってきとったし、あいつの話題になることは中学時代から徐々になくなっとったから。
俺のこと、覚えとるんかな。
あの約束、今なら果たせるんやけどな。
「忍足先輩!」
「うっわ、変わってねぇ!」
懐かしいメンバーに迎えられ、自然と心があたたまる。
軽くメンバーで身の回りの話をして、場が和んできた頃。
屋台へ向かおうと言う話になり、メンバーの後ろを着いて歩く。
「(なんや、人に変わらんとか言うけど、こいつらかて何も変わってへんやん)」
でもそこが、安心する。
「おい侑士!置いてくぞ!」
「あぁ、スマンな岳人」
メンバーに続いて俺は屋台を楽しんだ。
獲得したんはせいぜい、スーパーボールと光るカチューシャとおもちゃの指輪くらい。
「侑士、そのカチューシャ付けとけよ!おもしれぇし!」
「なんでやねん…岳人こそ、そのミカちゃん人形持ち歩くべきやわ」
「なんでだよ!」
そう言い合い、次の屋台の方に足を向けたその時。
「たまご…?」
視界の真ん中に、忘れもせぇへん、あのたまごの姿が映った。
こんな偶然、あってえぇんやろうか。
「たまご!」
俺は人混みに向かって叫び、駆け出す。
「忍足先輩!?」
「お、おいどこ行くんだよ!侑士!」
背中に鳳と岳人の声が掛かるけど、振り向いてられへん。
会いたい。
話したい。
ありがとうを…
俺の想いを、伝えたい。
必死に人混みに逆らってたまごの後を追うたけど、たまごの姿は人混みのせいで見えへんくなった。
ありがとう
(君にお礼を言いたかったこと)