テニプリ

□君に言えなかったことがある
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「『おぉおおお!!』」

中学で仲良くなった謙也と私は、とある雑誌を見つめて感激の声を漏らす。

『侑士…頑張ってるやん…』

その雑誌の題名は、月刊プロテニス。

「さっすが俺の従兄弟なだけあるわ!ま、俺の方が強いけどな!」

隣で一人威張る謙也を放置して私は誌面に目を走らせる。

"千の技を持つ天才"か…。

なんや無駄に格好えぇ異名持ちよって。

なんか悔しい。



ピルルッピルルッ



私の思考を遮ったんは、謙也のケータイの着信音やった。

謙也はポケットに手を突っ込んどる。

「ん?こないな時間に誰やろ。ちょっと電話出るわ」

『おお、ゆっくり話しといでや』

「スマンなたまご!…あ、もしもし?俺やけど。は?俺俺詐欺ちゃうわ!大体掛けてきたんお前やんけ!」

そう言いながら私の席の隣を通って教室を出ようとする謙也。

特に聞き耳をたてるつもりはなかったんや、たまたま耳に入って来て、聞こえてしもたんや。

「《ほんま謙也は朝から元気やなぁ…》」

同期の平均より、幾分か低い声。

ゆったりとした声で、この特徴のある声。

何より、電話で謙也と言い合いのできる人。

『ゆう…し…?』

振り返った時には、謙也は教室の扉の方まで歩いていっとった。

侑士や、間違えるわけあらへん。

声、低くなったな…。

最後に声聞いたのは三年前の小学6年生の頃やったからな。

私のこと、覚えててくれとるんかな。

私は侑士のこと、忘れたことなんかあらへんで。

でっかくなったら侑士は、お医者さんになって、大阪戻って来て、それで…

「…お……ぃ…たまご…たまご!」

気付けば謙也の顔が目の前にあり、私ははっと我に返る。

「なーに一人でニヤニヤしとんねん、また侑士のこと考えとったんか?」

『え!?な、なんでそうなんねん!誰が侑士のことなんか…!』

声を荒らげる私の目の前に、謙也は一枚の紙切れを差し出す。

『ん?なんやこれ、今日の謙也のおやつ?』

「そうそうバリバリッと一気に飲み込んで…って誰がシュレッダーじゃ!えぇから、開けてみぃ!」

謙也に促されて私はその紙を受け取り、開ける。

そこに記されてあったのは…

『電話番号…?』

「せや。それ、たまごにやるわ」

ゼロから始まる数字が面々と並んどる。

『なに、ナンパ?別に謙也と電話してまで話すことなんかあらへんやろ』

泣くで?

泣かれると面倒なので追い打ちをかけるのはやめにしようかな、なんて思っていると謙也は口を開く。

「それ、侑士の電話番号や」

『えっ!?』

あからさまに反応してしまう自分が悔しい。

「声、聞かせたってや」

そう言うて苦笑いをする謙也。

私は自分のケータイと謙也にもろたメモを握り締め、勢い良く席を立つ。

休憩時間はまだ少しだけ…ある。

『…おおきに!謙也愛しとるで!!』

私は人気のない屋上へ向けて走り出した。

しばらく走ると、屋上に到着する。

『ハァ、ハァ…ここまで来れば…誰もおらんよな…』

私は一人呟いて、ケータイの画面を見つめる。

三年ぶりに侑士と話せるんや。

高校も東京行くんかな。

私は相変わらず大阪から出ぇへんけど。

したい話が多すぎて、私はとりあえずひと呼吸する。

『…よしっ』

私はメモ通りに番号を登録し、発信させる。



ピルルッピルルッ

ガチャッ



『あ、あの!私ゆでたまごっ…』

「《おかけになった番号は、現在電波の届かないところか、電源を切って…》」

『な、なんや、留守電かいな…』

緊張して損した。

もうすぐ授業始まるし、時間変えて掛け直してみよかな。

私はケータイをポケットに収め、元来た道を戻り始る。

その後何度連絡しても、侑士が電話に出てくれることはなかった。



***



『謙也のボケ!ハゲ!大っ嫌い!!』

朝とえらい違いやな

『だって!』

侑士が電話に出てくれへんねんもん。

忙しいんかもしらへんけど、たまたまかもしらへんけど!

『謙也だけ話せるとかずるいわ!もう知らん!帰る!また明日な謙也!』

「お、おう…お疲れさん!」

私は教室を後にした。

「ハァもう…侑士、なんで電話出たれへんねん」

繋がっていたままの電話に謙也が話し掛ければ、たまごの話したがっていた人物…忍足侑士が声を発した。

《「なんで電話でわざわざ話さなあかんねん…大体、俺はえぇって言うたのに謙也が勝手にあいつに番号教えるからややこしいことなんねん…」》

「な、なんやねん、俺はお前らのためを思って…」

《「最初っから、あいつのこと好きにならんかった方が良かったんかもな」》

「はぁ!?なんでそないなこと…!」

《「(今声聞いたら、会いたくなってまうんは目に見えて分かる…)」》

「大体侑士があいつのこと放置してるから…」

《「(ほんまは俺かて………でも、もっと完璧になってから…)」》

「っておい、侑士聞いとるんか!?」

《「あぁスマン、電波悪ぅて聞こえんかった」》

「なんやて!せやから…」

《「(でも、少しでもたまごの声聞けて安心したわ)」》



ごめんな
(君と離れたくなかったこと)
 
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