Resonance
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アンジュの奪還に成功した私達は早速、聖都ナーオスへと戻って来た。
「…そう言えばアンジュってこの町じゃ有名人だよね?人に見られて平気?」
「うーん、そうね…平気じゃないかも」
ルカの質問にアンジュは苦笑した。
「んじゃ、さっさとハルトマンの家に匿ってもらいに行こうぜ」
「そうと決まれば早く行きましょ…ね?お坊ちゃま!」
イリアがスパーダを見ながらニヤニヤと笑う。
それに反応したのはリカルドだった。
「…お坊ちゃま?それはどういう…」
「な…何でもねぇって!…憶えてろよイリア!」
そんなやり取りをしながら私達はハルトマンの家へとやって来た。
「ハルトマン、居るか?」
家に入ってしばらくすると、奥の方からハルトマンがやって来てくれた。
「これはこれはお坊っちゃま、出迎えも出来ませんで申し訳ありません」
「ふ…お坊ちゃま…か」
ハルトマンがスパーダを"お坊ちゃま"と呼んだことに、リカルドは珍しくフッと笑った。
「そう、少なくともハルトマンの前では彼はお坊ちゃまなの。貴方もぜひそう呼んであげてね」
「つまんねーこと教えてんじゃねぇよッ!」
怒るスパーダを見てイリアはおほほほと笑っていた。
「おや、新しい御友人ですな。すぐお茶を用意致しますのでお寛ぎ下さいませ」
『あ、私お手伝いします!』
私はハルトマンの後ろに続いてキッチンへ上がらせてもらった。
***
『んん〜、良い香り…!』
紅茶を蒸らしていると、キッチンにほんのりとアールグレイの香りが薫った。
「申し訳ございません、お坊ちゃまの御友人にこのようなことを…」
『いえ、私がやりたかっただけですから!』
えへへと笑うとハルトマンも微笑んでくれた。
ダイニングの方からはイリアやスパーダの笑い声が聞こえてくる。
「この茶葉はこのように蒸らすと美味しく出来上がりますよ、タマゴ様」
『へぇ〜!なるほど、知りませんでした』
ハルトマンから新たな知識を教わった私は、その手際の良さや年の功に感心する。
「それはそうと、明日は王都レグヌムにお戻りになられると小耳に挟みましたが」
『はい、なんだか凄く久しく感じます』
言いながら私は苦笑した。
「…タマゴ様は心のお強い方ですな」
『え…?』
突然の言葉に驚き、私は動かしていた手を止めて振り返った。
ハルトマンはティーカップをテーブルに並べながら言葉を続ける。
「タマゴ様の心境を考えると、王都に帰るのは非常に不安かと存じますが…弱音を吐くどころか、こうして健気にわたくしめのお手伝いをして下さる…」
『何かしていないと落ち着かなかっただけですよ』
そう、さっきみんながチラッと話しているのが聞こえて来たのだ。
明日は情報収集のために王都レグヌムに戻ろうか?と。
正直、不安だ。
私がスパーダと共に捕まった場所だし…
何よりレグヌムには私の家と、オーナーの酒場がある。
何も言わずにこの旅をしている訳だから…もし、オーナーに出会ったら。
心配を掛けさせていることに申し訳無くなって、声を掛けてしまいそうだ。
けれど、先に進むためには…
情報収集のためにはレグヌムに行かないと。
私のワガママで、みんなを足止めしてしまうのは絶対に嫌だった。
『…』
「差し出がましいようですが…辛い時は辛いと、不安な時は不安だと、その気持ちを認めてしまった方が、不思議と心は落ち着くものです」
『!』
ハルトマンは穏やかに話しながら、紅茶をティーカップに注いでいく。
「誰かに話してみるのも、不安を拭い去る手段の一つでございます。どうか御無理のなさらないようお気を付け下さいませ」
『ハルトマンさん…ありがとうございます…っ』
優しく私を諭してくれるハルトマンの落ち着いた声色に少し泣きそうになったのは、秘密の話。