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『忍足くん…』

「なんや?」

今は二人して光くんのベッドに、並んで腰掛けとる状態や。

こんな状態でも手を握っとってくれる忍足くんはほんまに優しいと思う。

『全部思い出してん、昨日のこと』

「おん…」

『遊園地行ってコンビニ行って、変な人に会うて』

「おん」

ぽつりぽつりと話し始める私に、忍足くんはひとつひとつ相槌を打ってくれる。

『戦ってくれておおきに』

「そんなん…俺より、光の方が動いてくれとったわ」

私がお礼を言うても、忍足くんはふるふると首を横に振る。

『んーん…かっこよかった。正義のヒーローみたいやった』

私が"正義のヒーロー"と口にすると、忍足くんは苦笑いをする。

「なんやそれ、正義のヒーローて」

『テニスのサーブの構えしとった時、まばたきもできひんかったわ』

「自分にぶつけられるって思った?」

『おん…』

そうかそうかと頭を撫でてくれる忍足くん。

「あの時咄嗟に玄関にあった光のテニスバッグからラケットとボールひったくって…」

ほぼ無意識やったけど、と付け足す忍足くんは、やっぱり優しく笑いかけてくれる。

「もしボール当たらんかったらどないしようかと…もし当たってもあいつが気絶せんかったら、ゆでさんに何かされたらどないしようかと思って…」

忍足くんはそれこそ無意識なのか、手を強く握ってくる。

「俺、あの時めちゃくちゃ怖かったわ」

『そうなん…』

正直驚いた。

昨日の忍足くんは、怖がるようなそんな素振り一切見せへんかったから。

『変なことに巻き込んでもうて、堪忍な』

「そういうんちゃうねん」

ぐしゃぐしゃと私の髪を撫でる忍足くんは、ふぅと息をつく。

「あのままゆでさんを連れて行かれるって思ったから、怖かってん」

耳を疑うような言葉が忍足くんの口から告げられた。

思わず忍足くんの顔を見ると、目が合う。

その目はほんまに真剣で、からかってるようには見えへんかった。

自分の顔が少し赤くなるのが分かる。

私も、ちゃんと言わな。

『…昨日はすぐに寝てもうたけど、朝起きたら忍足くんがおって安心した』

私がそう告げると、今度は忍足くんが驚いて顔を赤くする。

このまま、言うてしまおう。

『私、初めて会うた時から忍足くんのこんぐっ

自分から出た場違いな声に、自分でも驚く。

ほんで今どんな状態なんかと言うと…

顔面を枕に押し付けられとる状態。

それも忍足くんの手によって。

私はそれを暴れて無理矢理引き剥がす。

『ぷはぁ!ちょっと忍足くん!?私本気で…!』

「なぁ、ちょっと聞いてくれへんか」

まっすぐと見つめられ、私は黙って頷くしかできひん。

なんやねん、人が話しとったんに!

しかも結構真面目で真剣な話!

私次いつ真剣なるか分からんぞ!?

「あんな…」

ゆっくりと話し始める忍足くん。

私はじっと忍足くんを見つめ、話の続きを待った。

「俺な、昨日千夏さんに告白したねん」

え、と思わず声が漏れる。

その瞬間、時が止まった気がした。
 
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