Middle
□09
1ページ/6ページ
「…ゃ………から…」
「そ…で、………ね…」
誰かの話し声が聞こえる。
この寝起きの、ふあふあとした感覚がたまらん。
今はまだ、起きたい気分とちゃう。
私は寝返りを打った。
「でも…」
「それで…」
それでも耳に入ってくる声。
私はさらに体制を変えた。
「家に連絡は?」
「とりあえずは、やったけど…」
あ、あかん…
意識がだんだんと覚醒していく…
「親御さんも心配しとるやろからな…」
「いつ起きるんでしょうね」
『やかましい!!』
「「あ、起きた」」
***
大声を出しながらガハッと起き上がった私。
その瞬間にちょうど、窓から差し込む日差しが顔にぶつかる。
私は思わず手のひらで日差しを遮断した。
そんな私を、忍足くんと光くんが見下ろしとる。
…え、忍足くんと光くん!?
『!?』
なんで寝起きに忍足くんと光くんがおるん!?
てかここどこ!?
これ誰のベッド!?
『…ここはどこ、私はだぁれ?』
「わかってて言うてるならぶっ飛ばしますよ」
『あぁせや今思い出したわ恐怖のせいで』
拳を固めながら言う光くんに、私は身体を縮こめる。
「昨日のこと覚えてへんみたいっすね。で、ここは俺の部屋」
『光くんの?…せや、なんで私こんなとこで寝て…』
キョロキョロとあたりを見回す。
『あ…』
そうか、思い出したわ。
『私、忍足くんと光くんに襲われて「ぶっ飛ばされたいんすね分かりました」うそうそすんません堪忍して』
ジョークのつもりやったのに!
光くんには通じひんかったみたいやわ。
「…」
ふと忍足くんの視線を感じる。
「…」
『…』
あ、変な子やって思われたかも。
これは…はよほんまのこと思い出さな。
頭を軽く押さえながら昨日の記憶を探る。
『今何時なん?』
「6時っすわ。もちろん朝の」
『6時…?』
なんで朝の6時に、こんなとこで…。
『…』
「…ゆでさん…」
思い出そうとしとったら、神妙な顔つきをした忍足くんが私の元に近付いてきて。
「おはよう」
抱き締められた。
『え』
思考回路が停止する。
「怖かったやろ。昨日のこと無理して思い出さんでえぇんやで」
怖かった?
「ゆでさんの家には千夏さんから連絡入れてもろた」
千夏さん?
家に…連絡?
「"あいつ"は、警察に引き渡した」
あ い つ ?
『…!』
忍足くんの言葉を聞いた瞬間、昨日の記憶が一気に蘇ってくる。
みんなで遊園地に行ってコンビニに寄った、その後のこと。
私のファンと名乗るストーカーと鉢合わせたこと。
全てを思い出した私は身震いした。
『………寒い…』
なんていうんやろか、足の先から一気に体温がなくなっていくような、そんな感じ。
寒いっていうか…身体が冷たい。
「光!なんかあったかいモン…」
「お茶沸かしてきますわ」
言って光くんは静かに部屋を出ていく。
扉の閉まる音が、さらに寒さを引き立たせた気がした。
そんな私に気付いたのか、忍足くんは抱き締める力を少し強める。
「もういけんで、怖ないで」
小さな子供をあやすかのように、ゆっくり背中を擦り、優しく頭を撫でてくれる。
「俺がおるから、いけんで」
忍足くんにそう言われると、不思議な感覚に陥る。
なんやろ、さっきまで寒かったのに…
胸がほわほわと小さくあったかく感じる。
『忍足くん…』
「なんや?寒いか?」
そう言うて手を握ってくれる忍足くん。
あったかい。
好きや。
ちゃんと言おう、好きって。