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シャーッ



私の自転車は少し急な坂道も、難なくスイスイと前へ進んでいく。

「…、…?」

…私ってそんなわかりやすいんかなぁ。

「…っ、………ぃ!…」

顔に出さへんようにせなあかんな。

忍足くんを見たら、真顔でおることにしよ。

それやったら逆に変かな?

ほな、とりあえず笑っとくか!

その方が自然やしな!

「………!…チッ…」

よっしゃ、頑張ろう私!

そう意気込んで、自転車のハンドルを握り直し、

勢いよく顔を上げた瞬間。



ガシャンッ



ゎぶっ!?

痛い!!

気付いた時になぜか私は、テニスコートのフェンスに顔面をぶつけていた。

続いて、視界がななめになっていく。

あれ、なんかよぉわからんけど…

私…こける…!



ドッシャーン



派手な音がして、自転車から投げ出される。

痛かった。

でもそれは、地面に身体をぶつけたからやない。

人とぶつかったから。

いや、ぶつかったんやなくて…

私は人の身体の上に投げ出されたんや。

瞬間、私の下敷きになってくれたこの人のにおいがふわりと鼻を掠める。

私が、好きやって言うたこのにおい。

そう、私の下敷きになってくれたのは…

『………光くん…』

「アンタ、ほんまあほちゃう…」

右には倒れた自転車。

左にはテニスコートのフェンス。

目の前は、芝生。

でも身体は芝生に触れてへん。

まとめ言うたら…

芝生の上に光くんが仰向けで倒れとって、その光くんの上に私がうつ伏せで倒れとる。

そんな状態。

運が良いのか悪いのか、砂利道やなくて芝生の上に投げ出されたみたいや。

『えっと…私…な、何が起きたか…わかれへんくて』

周りからの視線を痛いほど感じる。

恥ずかしい。

私は光くんの首に腕をまわした。

なんか泣きそうやったから。

『あかん…なんか泣きそう…堪忍な、光くん…』

なんでやろ。

こけて恥ずかしいから?

光くんが助けてくれて嬉しいから?

もし助けてくれたのが忍足くんやったら…なんて考えた醜い自分に絶望したから?

忍足くんと千夏さんに嫉妬したことを思い出しとったから?

『…』

いややー。

あー、出てくるな私の涙ー。

光くんに泣いてるとこ見られてえぇんかー。

写メ撮られて全国ネットでばらまかれるぞー。

頑張れたまごちゃん。

負けるなたまごちゃん。

君は強い子じゃないかー。

なんか…余計泣けてきた。

『…』

「…」

我慢するために、光くんに抱き着く腕に力を込める。

すると…

「…」

『…!』

背中に腕まわされて、さすられた。

後頭部に手ぇまわされて、撫でられた。

「泣きぃや」

この言葉だけ聞いたら、いじめっ子やん。

そんなことを思いながら私は目を瞑った。

『…っう、』

涙、出てきてしもた。
 
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