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パコーン



ラリーが続く中で、私は忍足くんのことばかり考えとった。

好きなんやって意識したら、何ていうか…普通に顔を見られへん。

「よっしゃあ!」

ふと、聞こえた声に顔を上げる。

「ゲームセット!ウォンバイ・忍足!」

「「「キャー!」」」

「勝ったモン勝ちや〜!!」

ニカニカと笑う忍足くん。

きゅうっと胸があつくなる。

私、この笑顔が好きなんやなぁ。

そんなことを考えていると

「ち、千夏さんっ」

少し上擦った、忍足くんの声がした。

「見てたで謙也くん!お疲れ様!」

「おおきにっす…!」

千夏さんが、笑顔でタオルを忍足くんに渡す。

するとまた、きゅうっと胸が締め付けら れる感覚がした。

『…』

あぁ。

私、嫉妬してるんやなぁ…

他人事のように考えている自分。

どうしようもないわ。

「ゆでさんっ!」

あ、忍足くんの声や。

『あっ…おん、何?』

あかん。

「何ってなんやねん!試合見てくれてへんかったん?」

直接、忍足くんの顔見られへん。

『いや、見てた見てた。かっこよかったで、うん』

意識しすぎやろ、私。

「棒読み!?反応薄いなぁ…何かあったんか?」

そう言って、覗き込んでくる。

『!』

「?」

私は顔が赤くなるのを感じつつ忍足くんから顔を背ける。

ただ忍足くんはそんな私を黙って見ていた。

この雰囲気が嫌で私は口を開く。

何か言わんと。

『………ぉ…』

「お?」

『…っ忍足くんに、分かって…たまる、か…』

声を振り絞ってやっと言えたのがその言葉。

あーもうあほや私!

「はっ!?何なんそれ!心配してんのに!」

もうえぇや、開き直ろう。

『へへ、ばーかばーか!忍足くんのばーか!』

「なっ!大阪人にばか言うなや!」

『あはは』

何か分からんけど、今度はめっちゃ嬉しい気持ちやわ。

あ、忍足くんがこっち向いてくれてるからかな。

…単純やな、私。

『ほな、私はもう帰るわな』

「え?あ、そうなん?」

『おん!』

自分でも分かるくらい、めっちゃ笑顔なんが分かる。

「今日ほんまにどないしたん…さっきまで泣きそうな顔してたのに今はニヤけてるし」

え、私さっき泣きそうな顔してたん?

うそやん…最悪。

絶対気持ち悪いやん!

『…』

「なんやねん…?ほなまた明後日な!」

あ、そっか。

明後日か。

遊園地いくんや!

『おん!また明後日!』

手を振ると、忍足くんも振り返してくれた。

それだけで、胸がいっぱいや。

「たまご〜!こんなとこにおった!」

『あ、愛華。忘れとった』

最悪か

二人で自転車に跨がる。

『もうイケメン観察はえぇの?』

「おん!だいぶ満足したで!」

『そっか』

どちらからともなく、自転車を漕ぎ出す。

「なぁたまご」

『ん?』

「えぇ恋しとる?」

『はッ?』

いきなりのことに、思わず自転車を止める。

すると愛華も自転車を漕ぐ足を止めた。

「忍足くんって人、どない?」

『え?は?…は、は…ハッハッハー、何が?』

何その不自然な笑い

『えっと、いや、あー…意味分からんし…!』

私が自転車を漕ぎ出すと愛華も並んで横を走る。

「やって…たまご、分かりやすいねんもん」

『え…』

「忍足くんと話す時、それはもう恋する乙女みたいな顔しとったで!」

きっしょ

「何で!?めっちゃ可愛かったで!」

『有り得へん…』

「いやいやいやっ!…まぁ、とりあえず頑張ってな☆」

『な、なんでそんなっ…』

「ほな、私はここで!」

『え、ちょっ…』

そこで愛華は道を曲がり手を振って帰っていった。

『…っ』

なぁ相棒。

私ってそんなに分かりやすいんかなぁ…?

私はしばらく、相棒(自転車)を漕ぎながらぼーっとすることしかできへんかった。
 
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