SHORT

□歪なハッピーエンド
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ママの命令で、グランドラインのある国を訪れた

本質的に用があるのはその国の海を挟んだ隣国、ストロベーゴ王国

ストロベーゴ王国は色々な果物の栽培が盛んだが、特にその中でもいちごの栽培が盛んで、そのいちごを使ったジャムが最高に美味だ

万国でも取引している商人がいるらしいがあまり出回っていないことも含めて、入荷したと分かれば一瞬でなくなるほどの人気をはくしている

そんなジャムが、ママの手元に渡るのは必然だった




「クラッカー、アンタのビスケットにジャムは合うんだろう?ママママ!」




最初はママのこんな一言

そうと決まれば早かった

しかしママ直々の文書を何度も送っても、帰ってくるのはノーの返事

何年も頑なに、ママに下ることを拒否し続ける

俺たちですら驚くほど、ママは気長に待ったが、とうとう行動に移すことに

直接そこの国に攻め入るんじゃない

欲しいのはその広大な果樹園とジャム作りの技術だからだ

周りの国からじわじわと巧妙に手を回していく

隣国とは協和条約を結んで取引が盛んらしいが、つい最近島の周辺で発見された海底鉱山がそこに亀裂を生んでいるらしいと聞きつけたママの命令で、隣国にその利益やうまい言葉を使ってこちらにうまく引き込んでいく

あくまでこっそりと

バレていようが、こっそりとが重要なんだ

最初の一言から分かるように、この王国を手に入れるための最後の一手まで、すべては俺に委ねられた


いまはそんな隣国にうまいことやっていた後

隣国で出された紅茶は、淹れ方がてんでなってないし、ビスケットのビの字もないほどお粗末だった

思わず俺の手を叩いて出したビスケット兵でその城ごと潰してやろうかと思った

けれど、そうすればあの美味なるジャムは手に入らない

隠れて出したビスケットを食べながら、無心で、ケーキよりも甘い言葉を吐き続けた


昔一度だけ手に入ったそのジャムは、酸味や甘みや、本当にすべてが完璧だった

隣国に行ったついでに、ストロベーゴ王国にも寄ってみる

どのように流通しているかは分からないが、運が良ければ手に入るかもしれない

いつものビスケット兵の鎧を脱げば、家族しか知らない素顔になる

そうすりゃ簡単にお忍びだ

島に降りたてば、かすかに薫るいちごの甘酸っぱい匂い

街のまわりには緑豊かな農園が広がっている

露店を覗けば、マーマレードやブルーベリー、りんごやあんずやいちじくなど、多種多様なジャムが並んでいた

けれど肝心のいちごジャムは見当たらない

店員にそれとなく聞いてみれば、どうやらいちごのジャムはこの王国の王女が直々に手がけて作っているらしく、そのせいで数が少ないらしい

それを知っている国民は出回った瞬間に買い占めるのだ

ほう、と思わず声が漏れた

あれほど全てが完璧なジャムを食べたのは生まれて初めてで、それをまさか王女が作っているというのは、単純に同じ職人として尊敬できる


とりあえず、今あるジャムをひとつずつ買い占めた

自国の特産品を見知らぬ俺が買うことに対して嬉しいのか、丁寧にひとつひとつジャム瓶を包んでいく

もう少しで占領されるのに、呑気な奴らだ

まあ、知らなくて当然なんだが

とりあえずジャムの味見をするために、人がいなさそうな森に向かう

船や俺の治める島に帰ってからでもよかったけれど、単純に待てなかった

森をずんずんと進んでいけば、海の見えるひらけた空間にでる

どすんとあぐらをかいて座って、丁寧に包まれたジャム瓶の包をひとつずつ剥いでいく

いろいろな色をしたジャム瓶は、きらきらと宝石のように輝いて見えた

それほどまでに俺は浮かれているらしい

パンパンと手を叩けば、美味なるビスケットが現れる

まず最初はあんずジャムにつけて食べてみるとしよう






「まあ、ここに人がいるなんて珍しい」

「!!」





背後からの突然の声に慌てて振り向けば、そこには小綺麗な町娘

手にはバスケットを持っている

思わず身構えるが、女は襲ってくる気配すらない

一般人がこんな近くに来るまで気づかないなんて、本当に浮かれていたらしい

女は綺麗に微笑むと、そちらに行っても?と首を傾げた

了承を得てから寄ってくるところに、少なからず好感が持てたから、ぎこちなく頷いてやる

俺の隣に座った女からは、甘い匂い

比喩なんかじゃなく、本当にしたんだ





「よく息抜きがてらにここでおやつを頂くんです、いい場所でしょう?」

「そりゃあ邪魔したな」

「あ、そういう意味で言ったんではないですの!いつも、・・・1人だったので、すごく嬉しいんです!もしよろしければ、わたしのおやつに付き合っていただけないでしょうか?」

「・・・フン、このジャムを食べるまでだからな」

「!ありがとうございます」





なんだか雰囲気が妹に似ているから久しぶりに世話をしてやる気分にもなったし、ジャムを食べれるということで機嫌が良かったから了承した

すぐに花が咲くように笑った女

女がバスケットの上に被せてあった布に手を掛けたところを横目に見ながらさっき出したビスケットにジャムをつける

甘味料じゃない、あんずそのものの甘みとほのかな酸味

単純に美味しかった

けれども、昔に食べたいちごのジャムはもっと美味しかった気がする

次はいつ出回るんだろうか

ほかのジャムの味も気になった

次はりんごにしてみよう





「貴方様は旅人かなにか?それとも商人ですの?」

「・・・まァ、そんなもんだ。昔食べたいちごジャムを探しにきたんだが、なかった」

「!いちごジャムですか、王女様が作っておられる?」

「そうだ。あれだけ美味いジャムにまだ俺は出会ったことがない」

「・・・もしよければ、召し上がりますか?ちょうどスコーンにつけて食べようと思って持ってきていますの」

「!!いいのか!!?」

「え、は、はい」





そう言って女はまたバスケットの中をがさごそと触って、ほかのジャム瓶より少し小さい瓶を取り出した

金色の蓋に、女の拳ほどの小さな瓶

きらきらつやつやと輝くところはやっぱり宝石に見える

あの時の味を思い出すだけで、ごくんと喉が動いた

俺の掌の半分くらいしかない手から瓶を受け取って若干興奮で震える手で蓋を開ける

出していたビスケットに掬って口に運べば、頭の中は感動の嵐だ





「やっぱりこれは世界で一番美味なるジャムだ!やっぱり俺のビスケットにこのジャムはとても合う!!口に入れた瞬間の酸味も香りも絶妙に残った食感も全てが最高だ!」

「あ、ありがとうございます・・・」

「フフ!ほかのジャムも美味いだろうが、やっぱりこれが一番だよ」

「・・・うふふ、そんなに褒めていただけるなんて嬉しいです。まさか、そんなに褒めていただけるなんて」

「分けてくれて本当に助かった。ぜひなにかお礼がしたい、いやさせてくれないと気が済まない」

「お礼ですか?・・・それでは、また私とこうやってお話してください。本当に時間がある時でいいですの!私は毎週ここでおやつをいただいておりますから、本当に貴方様がお暇な時でいいですから」

「・・・たった週に一度だろう。礼をすると言ったんだ、できる限り来てやる」

「!う、嬉しいです・・・!心からお待ちしておりますわ!」





そうやって、また花が咲くように笑った女

本当にいちごジャムをくれたお礼だった

これから毎週隣国には出向くつもりだったし、運が良ければまたいちごジャムを食えるかもしれないと思ったから

別に気を悪くさせるような女でもなかったし、他意はなかった



それから俺はビスケット大臣の仕事を片付けては毎週隣国との会談との帰りにここへ通った

毎週いちごジャムをもってくる女に、悪い気はもちろんしなかったし、逆にむしろ俺が幸せな気分に

お互いの名前は知らない

それが暗黙の了解のように気がつけばなっていたし、べつに知らなくてもいい

それは悪い意味なんかじゃなく、もうすでに赤の他人でもないように話すから今更聞いても聞かなくても変わらない

ただ俺は海賊という身分は隠していたし、どうせ町娘だろうがなぜいつもいちごジャムを持ってくることができるのかとか、秘密はどちらもたくさんあるだろう

まとめてしまうならば、ちょうどいい距離感だった、それだけだった


女の日常の話や俺の島の世間話

女は相槌とかをうつタイミングが上手いのか聞き上手で勝手に話が弾んでいく

半年を過ぎた頃あたりで、俺はこの週に一度のお茶会を楽しみにしていることに気がついた


今日も女が焼いてきたスコーンにいちごやカシスのジャムやメープルをつけて食べながら楽しそうに隣で笑う女を見る

一体何が楽しくてそんなに花が咲くように笑えるんだろうか





「ジャムは美味だし、そのジャムに誇りを持っている国民。この国は本当に豊かだよ」

「貴方様は色々な国を見てきたんでしょうね。・・・けれど、それは見かけだけですわ」

「見かけだけ?こんなに楽しそうにしているのにか?」

「民・・・皆はいい人ばかりですし、国土は緑に溢れていて気候も幸い恵まれてますしなんの問題もありません。けれども、王様は自分の保身しか考えておりませんわ」

「へェ、」

「重すぎる税金、荒々しい政治、すべてがです。娘のことも・・・、ただの繁栄のための道具としか思っておりません。こんな国滅んでしまえばいいの、あの王政だけ」

「ここ数ヶ月話してきたが、そんな表情初めてだな」

「!あ、すっすみません、このことは私の心の中だけに秘めておくつもりだったのに、つい貴方様と話しているとついうっかり・・・」

「フフ、俺以外なら打首だったな」

「・・・そうですわね、本当に、貴方様で良かったです」





凛とした瞳だった

暗い炎を燃え上がらせてる、本当に初めて見る瞳

そう言うならこの俺が連れ去ってやろうかと一瞬でも考えた自分に恐怖した

一回りほど離れた妹ほどの女を、俺は、


もう会談は終盤に差し掛かっていた








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