「兄さんがアナタについてる理由、なんだか分かる気がするわ」
「ッなら!」
ロスの夜景を見下げる
高級ホテルのスイートルームに私、次元なまえと巷を騒がしている伝説の怪盗の孫、ルパン三世はいた
ベッドからするりと抜け出て、タバコに火をつける
兄さんとはちがう銘柄
口いっぱいに独特な苦みが広がって、そのあと肺にも行き届いていくのが分かる
ベッドから出ると、まだ素肌だけでは肌寒かった
少し汗ばんだ髪を掻きあげると、兄さんとは似なかった金髪が視界にはいる
瞳だけそちらに向けて、そう呟けば、ルパンは私の手を引いていつもは見れない焦った表情を私に見せた
兄さんとは父さんだけ一緒で、母さんはちがった
見た目はなにも似てくれはしてくれなかったけど、銃の腕前だけは見事に継いだってよくいろんな人に言われる
当時の私は兄がいることさえ知らされていなかった
私も裏の仕事に足を突っ込んでいて、お金をもらえばなんでもするし、気に入らない奴は誰でも消した
でも私は金になるなら盗みもする
そんな私はなぜだか絵画に目がなかった
ただ見とれて、吸い込まれるような感覚
お酒を飲むこととお金と気持ちいいこと以外に初めて求めたものだった
だから絵画展に気に入ったものがあれば、すぐに盗るようになって、いつのまにか目利きもできるように
名もない画家の絵を好きになることもあれば、有名な絵はまったく見向きもしない時だってある
つくづく自分のことながら自分の感性が分からない
自分の美貌に自信はあるけれど好きにはなれなかった
しなやかな金髪も深い緑の瞳も
鏡に映る私は全部が汚れてるようにしか見えないの
そんなある日
ある美術館の館長に呼ばれた
美術館といっても展示品は汚い金で手に入れたり、ただの盗品ばかり
館長も丸々と太っている小汚い豚
別に私もするからなんとも思わない
でもおごり高ぶる目の前の豚を撃ちそうになる手を必死に抑えた
もし殺してしまえば、お金は手に入らない
依頼内容は、ここに飾ってある通称王妃の血と呼ばれる大きい深い紅のルビーを盗ろうとしている怪盗が今日の深夜に来るらしい
ソイツらからその宝石を守ること
相手の生死は問わない
相手は教えてはくれなかった
仲がいい情報屋とかに聞いてみても良かったんだけれど、それじゃ面白くないから敢えて聞かない
豚の目は本物の豚みたいな目をしていた
その日の深夜、たくさんの銃とかを脚に巻き付けて、ルビーの前に私はいた
ルビーは見れば見るほど紅く見えてきて気分が悪くなる
館長は隣の待機室にいるらしい
まるで最初からいたかのようにその声は私に話しかけた
『かわい子ちゃん、その宝石の由来を知ってるかい?』
『……ええ、もちろん。グリム童話の白雪姫のお母さんが誤って指に針を指してしまって、その血が真っ白な雪の上に滴るのを見てこう言った』
『[雪のように白い、血のように赤い、黒檀のように黒い子どもが欲しい]ってな。その血みてぇだってとこからこの宝石の名前になったわけだ』
『うふふ、さすがルパン三世。だから女の私が呼ばれたのね』
『ありゃ、俺の名前を知ってくれてるなんて光栄だなぁ、うっしっし!』
『アナタほど有名な怪盗はいないもの』
『かわい子ちゃんのお名前も知ってるぜ?これまた有名な次元なまえ。殺しも盗みの腕も最高らしいじゃねぇか』
『うふふ、褒めてもなにもでないわよ?』
『そりゃ残念だ。でもアイツがどうしてもっつって着いてきた意味が分かったぜ』
『は?』
『なまえちゃん、家族はいんのか?』
『知らないわ、興味なんてないから』
『ふーん、じゃあ知ってんのはアッチだけか。なまえちゃんはなんでこの宝石を守るんだい?』
『依頼されたからよ。…さて、アナタに勝てるなんて考えてないわ、ルパン。だから退いてくれないかしら?』
『おっと、それは聞けねえ相談だ』
『……うふふ、噂通りの人ね』
『こんなかわい子ちゃんがいるからしゃーねえだろ?』
いきなり腰を抱かれて、距離が極端に近くなった
でもその手の動きはたしかに銃の在処を探ってて、思わず笑みを漏らす
ほのかにお酒の匂いがした気がした
『……ねえ、このルビーを持っていると呪われるのよ?』
『あぁ。でもそれは美女の場合だろ?王妃が綺麗な人を妬んでって呪いらしいじゃねぇか』
『うふふ。今の白雪姫は可愛すぎると思わない?本当のグリム童話では、お母さんは白雪姫の臓物を食べようとしているし、1回だけじゃなくて3回も殺そうとしてる。ラストなんて赤くなるまで炙られた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊らされたわ。私は3回も殺されかけた馬鹿な白雪姫なんかよりそんな哀れなお母さんの方が好きよ』
『なまえちゃんには似合わねえ話だな』
『お似合いだと思うわ、私は』
『……さっき聞いたな、なまえちゃん。なんでこれを守るかって。………次元!!』
『………知らなかったのか、やっぱりな』
『あら』
隣の部屋の方から眉間に銃を押し付けられた館長が出てきた
後ろには真っ黒な男
ルパンと最近つるんでるっていう次元大介
ルパンが呼んだ名前、私に問うた質問、次元大介の言葉、私の銃の腕前
すべてが綺麗に繋がった気がした
『兄さん、てわけね』
『『!!!』』
『じっ、次元なまえ!!なにをしているんだ!!!高い金を払うんだ!!!!っ早くワシを助けろ!!!!!』
『ルパン、撃ってちょうだい』
『あぁ、分かった』
乾いた音が部屋に響く
次に館長が倒れる音がした
血がどくどくと趣味の悪いカーペットを汚していく
布越しにルビーを掴んで2人に見せつけてゆるりと口角をあげた
『ねえ、取引しない?』
『取引?っていうよりお前知ってて……?』
『いいえ、今考えたの。私の母さんよ?生き別れの兄弟がいたっておかしくないわ』
『へへっ、さすが次元の妹だ!もの分かりがよすぎんじゃねーか!』
『あ、あぁ』
『で、取引ってのはなんだい?』
『この宝石私にくれないかしら?そうしてくれれば、私はあなた達を逃がすわ。この豚は、成功しようと失敗しようと私を殺すみたいだったから今夜コイツは殺すつもりだった。今度のオークションで欲しいモノがあるからお金が必要なの。今私があるボタンを押せば止めさせてる防犯カメラもセキュリティも全部作動して美術館包囲数km、もちろん館内全部数秒で包囲されるわ。インターポールの銭形さん?5秒以内にあなたを視界に入れるでしょうね。……こんなことしたくないの、だからお願い、ひいてくれないかしら?』
『どーするよ、次元?こんなかわい子ちゃんに取引持ち込まれちまったぜ?さすが、可愛いだけあってえげつねえなあ』
『どっかの誰かとまるっきり一緒だな』
『にっしっしっ!!』
『うふ、美貌は武器よ?』
『もう俺様なまえちゃんに貢いじまう!』
『オイ。……今回は譲ってやるさ。けど身内だとしてもここは裏の世界。次はねえぜ?』
『さすが兄さんね。素直にありがとう』
『なまえちゃん、この後一緒に酒でも…………』
『ルパン、もういねえぞ』
『そ、そりゃねえぜ』
これが初めて逢った日のこと
次に逢ったのはたった3日後
質素な街の小さくてこじんまりとした美術館にある絵画を気に入って盗りにはいった時
絵画の前でつい見とれていると、前のように月明かりだけの薄暗い館内にごく普通に、最初からいたように声が聞こえた
『さすが兄妹。感性は同じなんだな』
『あらそうなの?』
『なまえちゃんがどの街にいるか高い金かけて探してもらって、その周辺の美術館で次元が気に入った絵があるところに目つけてたんだ。まあ、なかなかの賭けだったけどな』
『探してくれたなんて嬉しいわ。私なにかしちゃったかしら?』
『いーや、ただ俺様が逢いたかっただーけ』
『女を口説くのは盗みの才能よりないのね』
『傷ついちまうなあ。一目惚れしちまったんだよ』
『あなたの女グセは盗みの才能と同じくらいに有名よ、ルパン。そんな言葉を何人の女に吐いたのかしら』
『厳しいなあ、なまえちゃん。でもほんとのことだぜ?』
『うふ、ならありがとう。でもごめんなさいね、私忙しいの、あともう少ししたらここの館長が見回りに来ちゃうから』
『知ってるよ』
『なら意地悪な人ね』
『俺は女の子には優しいぜ』
『嘘つき』
『せめて連絡先でも教えてくれよ、なまえちゃん』
『いーや。また今度みたいに私を見つけて?そしたらディナーにもなんでも付き合うわ』
『立派な悪女だね、こりゃ』
『それも含めていい女でしょ?』
『もちろんさ』
『じゃあまたね、ルパン。楽しみにしてるわ』
『あぁ、捕まえてやる』
ルパンは言った通り数日後に私を見つけ出した
変装すらしてたのに
さすがに私も驚いた
そんなこんなで何度目かのディナーの後
私を痛いくらいに強く抱きしめるルパンの呼びかけに記憶の彼方に消えかけていた意識が舞い戻る
「なまえ、俺が一生守ってやるからっ、!!」
「そんな人生私は望まないわ、私は自由に生きたいの」
「それでも俺は死なせたくねえんだよ!!!っ俺は本気でお前を………!」
「…ダメよ、貴方は天下のルパン。そんなこと言っちゃダメ。私この世界に疲れちゃったの。最期に貴方や兄さんの敵になるのはたしかに辛いわ。けれど貴方の方についてもどうせいつかは殺される。逃げ惑って醜く生き延びて誰だか知らない奴に殺されるなら貴方の銃弾で死にたいの」
「なまえッ………………!」
「……愛してるわ、ルパン。だから貴方が私の最期を飾ってちょうだい」
「、どこまで俺様を惑わせたら気が済むんだい?」
「うふ、最期までに決まってるじゃない」
ルパンの瞳から流れ落ちた透明な液体は、静かに私に滴った
天使の呪い
(天使に似合うのはきっと)
(翼なんてよりピストルだと思うの)
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なまえサンは大きいマフィアに盗みに来るルパンたちの殺害を依頼される
ルパンはこちらに来ることを願うが、大きいマフィアなのでどうせ殺されることを知っていた