SHORT

□歪なハッピーエンド
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「え、俺が?」

「そうさ、マママママ!そろそろアンタも世帯を持たなきゃね!ストロベーゴの王女の腕はもう分かってるんだ、いつでもそのいちごジャムを食べれるなんて幸せじゃあねえか」

「そ、そうだけど、」

「それともなんだァ?おれに口ごたえでもするのかい?」

「そっ、そんなわけないだろうママ。・・・もちろん、喜んで嫁に貰うよ」

「ウエディングケーキの準備をしなきゃねェ
!ママママ!」





始まりがママの一言なら、終わりもママの一言だった


ある日呼ばれてみれば、そろそろ作戦の実行と捕虜代わりにジャム作りの技術を持つ王女との結婚を伝えられる

決して結ばれるとも思ってなかったし、無理なのも分かっていた

けれど、もうあの時間が無くなると考えると無性に胸がひりひりとした痛みに襲われる

作戦の実行は、アイツともう会えないことを意味していたし、知らない好きでもない女と結ばれることも意味していた

分かっていた、もちろん

数年前までならすんなりと受け入れられたであろうそれも、今じゃ気持ちの悪さと不快感、少しの寂しさしか浮かばない

食べてみたいと言ったアイツのために作ったビスケットが急に重く感じた

今日はちょうど、会談の日だ































「まあ、本当に美味しいです!!!!今まで私が食べてきたのはビスケットじゃなかったのかしらというほどですわ!」

「フフン、当たり前だろう。俺が作ったんだから」

「うふふ、これがもし毎日食べれるのでしたら、きっと日々がもっと輝きますわね」

「・・・そうだろう、当たり前だ」

「?どうか致しましたか?今日はなんだかご気分が優れないように見えます」

「、大事な話があるんだ」

「大事な話ですか?」





作ってきたビスケットをやれば、想像通り笑顔を見せた

今日はシフォンケーキを焼いてきたらしい

紅茶の味がちょうどよくて、なかなかの腕だと思う


今日で最後になることを伝えようと隣に座っていた女を見下ろせば、キャンディみたいにつやつやきらきらした瞳で俺を見ていた

ママの命令は絶対

欲しかったお菓子が手に入ったのに、妹たちに強請られて泣く泣く渡す羽目になった時のことを思い出す

どうせ、ここを占領すればこうなる運命だった

ただ、それだけだ





「・・・もう次からは来られない」

「!そ、そう・・・そうなんですね。私の我儘に付き合って頂いて、たくさん貴方様のお時間を奪ってしまいましたわ、本当に申し訳ございませんでした」

「いや、話は楽しかったしお前が作るお菓子は最高に美味だったよ。この俺がこう言うんだ、自信を持っていい。それに、・・・俺はこの時間が案外気に入っていたみたいだ」

「・・・・・・最後の戯言だと思い聞き流してくださいませ。私、本当に夢のような時間を過ごさせて頂いて、本当に・・・嗚呼、私夢を見ていましたの。もし将来夫婦になれるならこんな殿方がいいと、本気でそう思えるくらいに幸せでした。生涯忘れることはありません。どうかお元気でいてください。またいつかお逢い出来る日を夢見てこれからを生きていきます」





まるで小説にでてきそうなほど熱烈な言葉

俺は気がつくと抱きしめて、そのままキスをした

ほんの触れるだけ。俺にしてはたいそう珍しい

そうしてから、何も言わずその場から立ち去った

もうここには来ない






























それから、すぐに始まった隣国とストロベーゴの戦争

俺達の目論見通りだ

戦力なんてほとんど無いに等しいストロベーゴが窮地に立たされるのは必須

そんな時、ストロベーゴを救ったのがママだ

隣国を完膚なきまでに叩きのめして、ストロベーゴに恩を売付ける

なんてはちゃめちゃな筋書きなんだと思うんだが、それくらいママはストロベーゴの農園や技術が欲しかった

直接乗り込んではあの広大な農園まで焼け野原にしてしまうから


その途中、混乱に乗じてこれまでの悪政ぷりに王は処刑になったらしい

あの女が言っていた通り王の振る舞いはたいほう酷かったそうだ

無事に戦争が終わって、王の跡を継いだ長兄とママはストロベーゴとの直接会談に持ち込んだ

これから毎年決まった量のジャムを納めること、王女を嫁がせること

王女は暗に人質だった

どんなめちゃくちゃな内容でも、もう呑むしかなかっただろう

帰ってきた上機嫌のママの口から俺の結婚式の日取りがでてきたのは当たり前のことだった






そしてとうとう結婚式当日

今日が初めての王女と会う日だ

これからのことを思うと気が重くなる

好きでもない女とこれからの生涯を過ごすのだ

そんな俺を見かねたカタクリの兄貴が励ましてくれる

白いタキシードは俺にはまったく似合ってないような気がした






「さっきお前の花嫁を見に行ったが、綺麗じゃねェか」

「よしてくれよ兄貴、噂じゃ一回りほど離れた女らしいじゃないか」

「歳なんて関係ねェ」

「はァ、」

「そんなシケたツラを花嫁に見せるな。ほら、ちょうど来たぞ」





控えめにノックがされて、姿を現したのはあちらの待女

椅子に座っていたのを仕方なく立って出迎えてやる

気に入らない女なら、すぐに別々に住むでも何でもしてしまえばいい

これはただの政略結婚なんだから

俯いた顔をあげれば、女はお辞儀をしているらしい

まさか、そんな、





「お初にお目にかかります。ストロベーゴが王女、なまえでございます。旦那様、これからよろし・・・く・・・・・・、あなた、様は・・・・・・」

「どちらも、隠すのが上手いらしい」





初めて名前を知った瞬間だった

















歪なハッピーエンド

(愛した女と結婚できるなんて、)
(俺はたいそう運がいいらしい)




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