テニプリ

□ばいばい、またね
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しばらくして、テニス部の先輩達が俺の前を通った。



丸井先輩はガムを膨らませながら、ちょっと目が潤んでる。

仁王先輩はよくわかんねー表情だった。

柳生先輩は目が赤かった。そーいや、泣いてたよな。

ジャッカル先輩は…やっぱ頭光ってる。マジ、写メりたい。

柳先輩は真面目に歩いてた。目は閉じてたけど。さすが参謀。

真田副部長は凛としてた。前を向いて、立ち向かうように。


幸村部長は微笑んでた。なんで微笑んでんのかは分かんねーけど、幸せそうだった。




いろいろな表情で歩いていく先輩達。

表情は違ってたけど、共通してることが一つあった。


それは、全員がしっかりと前を見ていたこと。

振り返らず、脇目も見ずに。


きっと、俺の存在に気づいてなんていなかった。先輩達の目に俺は写っていなかったんだ。








そうか、俺は違うんだ。

俺だけが、違う。
俺だけが、置いてきぼり。


先輩達は今日で居なくなる。
中学校のテニスコートで先輩達のプレーは、もう見れない。


だけど俺は?


先輩達が居なくなっても、俺はここに残り続ける。一人で。








悲しい、寂しい、何でだよ。


そう思ったら俺は止まれなくて、気づけば道をとっくに歩き終わってた先輩達を追いかけていた。



























無我夢中で走って数分。

目指した場所はテニスコート。

先輩達が居そうな所を考えたけど、ここしか思いつかなかった。




「はぁっ…はぁっ……!」




テニスコートに着いた俺は、全体を見渡した。

だけど先輩達はいなかった。



誰もいないガランとしたテニスコート。

いつもは皆の笑い声とかで賑やかなテニスコートは、打って変わったように静かだ。




「なんなんだよ…」




気づけば俺は泣いてた。

両目から涙をみっともなくボロボロと。情けねぇ。


なんで、なんでだよ。

なんで皆いねーんだよ。


俺と先輩達の繋がりは、テニスなのに。テニスが無かったら、俺らは出会えなかったのに。



先輩達なら絶対ここに居ると思ってた。意味なんてない確信だったけど、絶対って思った。


だけど、いなかった。



それが意味するのは俺と先輩達との繋がりが無くなったことに思えた。




嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

離れたくない。
一緒にいたい。



お願いだよ先輩達。







「…置いてかないで、下さいよ」



「…赤也?」




お前、どーしたよ?泣いてんのか?


聞き覚えのある声。

俺が小さく呟いた声に返答してきた声は、確かに聞いたことのある声だった。


ばっ と振り向けば、そこには丸井先輩がいた。


丸井先輩だけじゃない。
テニス部レギュラーの先輩達が、全員居た。




「…泣いてなんてねーっス」



「目が赤いのが何よりの証拠じゃろ」




泣いてないと否定をすれば、仁王先輩が証拠を突き付けてきた。

くそ、この人はこーゆー人だった。



「切原君、ハンカチをどうぞ」



柳生先輩がハンカチを差し出してくれた。さすが紳士。

ですけどこのハンカチ、もう
ぐっちょぐちょなんスけど。




「…赤也が俺達が居なくなることを考えて泣いた確率97%」




なんで分かるんだよ。

さすが柳先輩って言いたいとこだけど、言ったら柳先輩のデータが正しいって言ったようなものだ。…正しいけどよ。




「赤也!日本男児たるものそう気安く泣くな、たるんどるぞ!」




でた、副部長お決まりの台詞の「たるんどる!」が。

なんだよ。結局、副部長には最後まで怒られるのかよ。…副部長らしーっスけど。




幸村部長以外の皆が言葉を発した。

俺はこのノリで幸村部長も続けるのかなとか思った。



だけど幸村部長は黙っている。

目を伏せて少し下を向いてるから、表情もわからねぇ。










しばらくして俺が少し不安な気持ちになってきたころ、幸村部長が俺の目の前にきた。



そして口を開く。




「赤也」


第一声は俺の名前。

俺はそれに対してなんて答えればいいんだろう。

「はい」って返事をすればいいのか?「焦らさないで下さいよ」って茶化す?


いや、どれも違う気がする。



俺は結局黙り込んで、部長の次の言葉を待つことにした。




だけど、部長は言葉を続けてくれない。

なんだよ、なんなんだよ。


何か言おうとしてんじゃねーのかよ。何で部長も黙ってんだよ。なんなんだよホント。



シーンとした空気が痛い。

耳を澄ましてるわけじゃ無いのに、風の音が良く聞こえる。
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