テニプリ

□さよならは言わないよ
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いつもと変わらん校庭。
その隅っこに俺と白石は居た。
いつもと同じ校庭。だけど、いつもと違う。

風景は何も変わっとらん。違うんはきっと、




「なぁ、白石」


「ん?なんやねん謙也」


「…卒業、したんやな」



俺は下を向いて言った。



「したな」



俺の問いなのか呟きなのか分からん声に、白石は短く答えた。

そう今日俺らは卒業したんや。

中学から高校へのステップアップの為の儀式。一つ大人になるための階段を上った。

いや、上ったんか?
儀式としては上ったかもしれへんけど、ほんまに上ったんかって聞かれたらわからへん。



「卒業したっちゅー実感、白石にはあるか?」



そうだ、俺には実感が無いんや。

卒業式をしたからっていきなり「今日から俺は大人や!」なんてならへん。

卒業式を終えた瞬間、「高校生なったで!」って気分でもない。あ、入学式やらんと高校生にはなれんか。

さすがのスピードスターの俺やって、そんなに早う切り替えられんわ。




「んー…あるっちゃあるし、無いっちゃないわなー」


「どっちやねん!」


「しゃあないやろ、そんな気分なんやから」





どんな気分や。

あるっちゃあって、無いっちゃ無いとか何やもう。真面目な答えをコイツに期待した俺があほやったのか。





「…気分はともかく、卒業したっちゅーのはホンマやで」



頭ん中でごちゃごちゃ考えてたら、横で白石が呟いた。



「…わかっとるわ」



わかっとる。
俺らはもう卒業したって。

卒業した気分やなくても、なにがなんでも俺らは卒業したんや。




「中学校も最後やな…」




白石がまた呟いた。
それは俺に対しての問いだったんか、それともただの独り言だったんか。


多分コイツの事やから、俺に対して問いたんやろな。確証なんてあらへんけど。



やって、白石がさっき呟いた事は、俺も頭の隅の隅の隅っこで考えてたこと。


そうや俺らは卒業したら中学校に来るんは中々無い。

つまり財前や金ちゃんに会うことも減る。




「……寂しい、な」


「…せやな」




俺が寂しいと呟いたら、白石が答えた。せや、白石も寂しいんや。


ちゅーか、寂しく無いやつなんておるんか?卒業したら皆と会えなくなるんやで?…あ。




「そか、卒業したら白石とも皆とも離れるんか…」


ああ、気づいてしもうた。

白石はきっと俺より先に気づいてたんやろう。気づいてて、口には出さなかったんやろう。


口に出したら、寂しくなるって事を気づいてたから。



あほやなぁ俺。
ホンマにあほや。




「…離れとう無い」




子供のようなわがままを言った。

無理やなんてわかっとるけど、これは俺の本音やった。


高校は皆別々になる。
テニス部の皆やって。

いくら仲良しだからって、高校は自分の人生に置いてめっちゃ大切な分岐点。


友達と同じんとこ行きたいからなんて適当に決められん。

もちろんテニス部の皆も、全員同じ高校なんてことは無くて、バラバラやった。



きっとこれからは会うことさえ難しいんやろう。

全員揃えるなんて、難しいの上の上や。



財前や金ちゃんなら中学校に行けば、会えるかもしれへん。部活の時間とかに押しかければ。

いや、それも難いわ。高校の部活は厳しいらしいしな。

白石達に会うんはもっと難い。

高校の距離は結構なもんやし、それに部活やらなんやらで忙しいやろうし…。




「…っ」


「ちょ、なんや謙也、汚い」


「ほっとけやぁあああ!」




俺は寂しくなって、泣いた。

涙が頬を伝ったときに白石に、汚い言われて叫んだけど。

叫んで元気になったんは一瞬でまたすぐに涙はこぼれた。


ぼろぼろ、ぼろぼろ。

卒業式の間、頑張って泣くのをこらえてたんやけどな…。

頑張ってた俺の努力を嘲笑うかのように、涙は溢れる。なんやダムが崩壊した見たいやなぁ。
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