テニプリ
□ばいばい、またね
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「…部長」
俺は我慢できなくなって、声を出した。
何て言えばいいかなんて分かんねーから、とりあえず名前。
いや、役職名か。
俺は言葉を発した。
次は部長の番だ。
…なのに部長は黙ったまま。
なんでだよ。意味わかんねぇんスけど。
何か言えよ。
ドラマや漫画とかなら普通、ここで部長の最後の言葉とかあるだろ。
なんかねーのかよ。
仮にも次の部長なんスよ、俺。
前部長からの激励とか、叱咤でもいい。なんか言ってよ部長。
だけど部長は変わらず黙ったまま。
そんな部長を見て俺はホント、マジで我慢の限界を。怒りの沸点が越えたように叫んだ。
「…なんなんスか部長!黙ってねーでなんか言えよ!ああ、そうッスよね!卒業したら俺なんかカンケーねーってことッスよね!……黙ってんじゃねーよクソ部長!」
言っちまった。
溜まってたモン、全部吐き出しちまった。
息を整えながら部長を見れば、部長は微笑んでた。
そして口を開く。
「…追いかけてきてよ、赤也」
「は…?」
「俺達は先に進む。だけど、赤也を置いてくつもりは無いよ」
追いかけてこい?
置いてくつもりは無い?
「待ってるから」
幸村部長は微笑んだ。
優しく、俺のことを包みこむように、しっかりと。
俺のことを見ていた。
良く見ると、俺を見ているのは幸村部長だけじゃかった。
先輩達全員が、しっかりと俺のことを見ていた。
全員が例外なく、優しく微笑んで。
そうだった。
忘れてた。…馬鹿だな俺。
先輩達は俺を置いていくような人達じゃなかった。
たとえ校舎が違っても。
同じコートに立てなくても。
繋がってんだ。
置いてかれてるわけじゃないんだ。
…なんだよ先輩達。
さっきまでの俺の思考を思うともの凄い恥ずかしいんスけど。
だけど¨繋がってる¨って事実が嬉しいくて、恥ずかしいを勝ってて。
「…っ」
「ちょ、泣くなよ赤也!」
「…丸井先輩だってっ、泣いてんじゃないッスか……っ」
俺はまた涙をこぼした。
今度のは悲しい涙じゃなくて、嬉しい涙。気持ちをスッキリさせるための涙。
寂しい気持ちもある。
少なくとも一年間は一緒のコートに立てない。
会うことは出来るだろうけど、回数はきっと少ない。
だけど、良いんだよなそれで。
先輩達と離れる一年間は、先輩達を倒すための準備期間。
一年間、頑張って練習しまくって一年後には全員ブッ潰す。
そう考えれば大丈夫。
俺は一年間やっていける。
だけど¨寂しい¨が全部消えるわけじゃねーから、泣いた。
ただそれだけ。
あ、そういえばまだ先輩達に言って無いことがあるのを思いだした。
俺は制服の袖でごしごしと涙を拭い、先輩達を見る。しっかりと。
いつも一緒に馬鹿やってた丸井先輩。アンタの妙技はマジすげーと思います。食い意地も。
何考えてんか全然わかんなかった仁王先輩。何回騙されたか、数えきれないんスけど。
紳士な柳生先輩。七三分け、丸井先輩と仁王先輩と影で笑ってました。悪りッス。
データマン柳先輩。ダブルスとか、いろいろお世話になりました。
真田副部長。怒鳴られた記憶がほとんどだけど、ちゃんと叱ってくれたりが嬉しかったです。
そんで幸村部長。
追いかけて行きます。
だから待っていて下さい。
ありがとうございました先輩達。お世話になりました。
それと…
「卒業おめでとうございます」
一瞬だけ涙を止めて、笑って言った俺に、先輩達は声を揃えて『ありがとう』と言ってくれた。
(またね、ばいばい)